ご挨拶
 就任翌年4月に国立大学法人化がなされ、それと同時期に始まった卒後臨床研修制度の影響により、外科系志望者の減少が懸念されましたが、そのような状況のなかで、臨床、研究、教育全ての面で長崎大学における高い貢献度を維持することをスローガンに教室員一丸となって駆け抜けて参りました。その結果、外科への熱い志をもった医師達が、この7年間で計33名(男性27名、女性6名)来てくれたことを大変嬉しく思っています。
教授:永安武
腫瘍外科のモットー

 外科とは"科学的根拠に裏付けされた最良かつ最高の技術をもって行う手術治療"を意味します。このことは、決してその時代における新しい技術の導入だけを指すのではなく、先人が築き上げてきた技術を科学的に検証しながら、現代の手術にあった技術に改良してゆくことが大切であり、これすなわち温故知新の精神です。

 外科医にとって、1)手術手技向上への努力を怠らないこと、2)豊かな人間性と専門職としての高い倫理観を有すること、3)リサーチマインドを持った探究心あふれる臨床家であること、が重要であると考え、この3つを備えた総合力のある外科医を育てることをモットーとしています。

現体制について
 2003年7月に故綾部公懿教授の後任として教室を主宰しています。教室は通称、第一外科と呼ばれていますが、現在は正式名称ではありません。従来使われて来た第一外科学講座という名称は平成14年の大学院大学への移行とともに廃止されました。現在は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 展開医療科学講座腫瘍外科学というのが正式な名称となります。従って腫瘍外科の名称はどちらかといえば大学院の研究面に基づいた名称と言えます。
 これとは別に独立行政法人化に伴い長崎大学病院の診療部門では、当科は、呼吸器、乳腺内分泌、小児、肝胆膵、上部消化管、下部消化管の計6つの診療班から構成されており、いずれも専門性の高い診療が行われています。また、地域性も考慮した総合外科医の育成も重要であると考えており、専門領域が個別化しつつある現在でも、各グループの連携と情報交換の観点から、週一回の総合カンファンランスを行なっています。
入局者について
 入局後の後期研修医は、最初の一年間は皆大学で一緒に基本技術を習得することを原則にしています。すぐに関連病院で実践を積ませるべきだとの異論もありますが、外科はチーム医療ですので、まずお互いを知ることが大事であると思うからです。
 その後に外科医としての研鑽を積む関連病院群も県内、県外を問わず充実しており、いずれも教室出身の先生方が幅広く活躍されています。若い先生方にとって、大学に所属することの大きな利点は、1) 個々のニーズにあった研修プログラムが行なえること、2) 研究や留学に関して生活面でのサポート体制が充実していること、3) これからの人生において様々な面で相談できる同胞が多くいること、ではないかと思います。具体的には、外科の修練中に偏った疾患ばかりの手術実績にならないように勤務先病院の考慮や、大学院でのリサーチ中や留学後の収入面の確保などを教室主導で行ないます。大学医局と関連病院群指導医との間の連絡を密にしたサポート体制も重要と考え、各人の動向なども時々メールなどで知らせてもらうようにしています。
近年のトピックス
 2005年4月には教室の肺移植分野における永年の実績と努力が実を結び、脳死肺移植の実施施設として従来の4施設(東北大、京都大、大阪大、岡山大)に加えて、長崎大学が福岡大、独協医大とともに追加認定されました。そして2008年4月15日に適応としては国内初となる肺胞蛋白症レシピエントへの生体肺移植を実施し、6月30日に無酸素で元気に退院されました。このことは教室の歴史に新たな頁を記すことになったと同時に、高度先進医療を目指す長崎大学病院への大きな貢献となったものと自負しております。これまで生体肺移植を3例に施行していますが、いずれも脳死ドナーが間に合わない状況下でした。2010年7月から施行された改正臓器移植法の運用に伴い脳死ドナーが増加する中で、同年11月26日に県下で第一例目の脳死肺移植を施行しました。
RYOMAプロジェクトについて
 2010年度から卒後臨床研修制度が変わり1年目のみが必修となり、2年目からは自由選択ができるようになりました。うたい文句は2年目からでも将来専門としたい診療科で研修ができるということですが、自由選択期間を従来のプログラムよりも長くしたことで、それまで必修であった外科、麻酔科、産婦人科、小児科、精神科がはずされてしまいました(これらの2科から選択必修3か月)。新しいプログラムでは卒後臨床研修の2年間に外科を全く研修しないことも可能です。
 このように卒業してしまうと外科の研修を志望しない限りは外科と接することがない現状を大変憂いています。考えてみれば卒後臨床研修制度以前は、卒業後すぐに希望の診療科に入局していたわけですので、その頃と基本的には変わりがないように見えます。しかし、卒業試験や国家試験の日程が以前に比べるとどんどん前倒しになっているため、医学部カリキュラムの変更などにより、臨床実習の時間が随分少なくなっています。結局、外科系診療科においてその一番の魅力である手術治療という技術をアピールできる一番大事な実習時間さえも少なくなっているわけです。
 前述のように若い医師達に外科をアピールする機会が少なくなってきている現状をなんとか打破しなくてはなりません。教室では2009年3月に若手外科医育成プログラム「長崎RYOMA(Recruitment of young medical apprentices)プロジェクト」が発足しました。これは卒後臨床研修医や外科に興味のある学生を対象とした外科基本的手技習得のプログラムであり、中堅の外科医が中心となってドライラボ(器具の操作やバーチャル手術を疑似体験)やウエットラボ(ブタなどの動物の臓器を使った手術)を用いた実践トレーニング講習を定期的に行っています。そこに集まってくる若手の目の輝きを見ていますと実践に勝る教育なしということを実感致します。外科の将来もそんなに悲観したものではないと楽観的に思う今日この頃です。
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科腫瘍外科学分野
長崎大学医学部腫瘍外科(第一外科)
教授 永安 武