患者さんへ

食道アカラシアに対する低侵襲内視鏡治療(POEM)
食道アカラシアに対する低侵襲内視鏡治療 POEM (Per-Oral Endoscopic Myotomy)
1. 食道アカラシアとは…
食道アカラシアとは、食道と胃の接合部が弛緩しない、または強く収縮していることにより、食事が食道から胃内へ通過せず食道内に滞留する疾患です。男女差はなく、発生率人口10万人あたり2~3人の比較的まれな疾患です。
食道アカラシアの代表的な症状は、食事の通過障害による“食事のつかえ”や“食後の嘔吐”であり、重症になると眠っている間に嘔吐したり誤嚥性肺炎を起こすこともあります。そのほかに“締め付けられるような”“刺されるような”胸の痛みを生じることもあり、ときに心疾患を疑われ検査を行われることもあります。
2. 食道アカラシアの検査
食道造影
食道透視検査(バリウム)を行うと、食道の拡張と食道胃接合部の狭窄によって特徴的な“鳥のくちばし; bird beak”サインが見られます(図1)

上部消化管内視鏡検査
大きく拡張した食道内に食物残渣が貯留していることが典型的(図2)ですが、食道の拡張や粘膜性状の変化を伴わない場合もあるため、注意が必要です。また、“同期性収縮”と呼ばれる蠕動とはことなる異常な収縮運動が観察されることもあります(図3)

食道内圧検査
狭窄部や食道全体の圧が上昇すること、食道の正常な蠕動が消失していることなどでこの病気の確定診断となります。

(図1)   (図2) (図3)
(図1)   (図2) (図3)
3. 食道アカラシアの分類
食道造影の分類 (図4)(食道アカラシア取り扱い規約より)
紡錘型 食道下部が筆先状またはV字状を示すもの。
フラスコ型 食道の下部がフラスコ状またはU字状を示すもの。
S字型  食道の縦軸がS字状の蛇行を示すもの。
(図4)
(図4)

拡張度分類;食道の最大径からの分類
I度(grade I) ~3.5cm
II度(grade II) 3.5~6.0cm
III度(grade III) I6.0cm~
4. 従来の治療法
治療法として、まず亜硝酸薬やCa拮抗薬等の内服治療を行うこともありますが、劇的な症状の改善を得られることは少ないとされています。一般的には内視鏡的バルーン拡張術を施行され、無効の際に腹腔鏡下の手術(Heller-Dor手術)が行われます。内視鏡的バルーン拡張術は短期的には有効なことが多いですが、約40%で症状の再発が起こるとされています。またボツリヌス毒素局注療法を行うこともありますが、高い確率で再発することに加えて、現在は保険適応外のため、一般的には施行されていません。外科手術はもっとも根治性が高いと考えられますが、ある程度体に負担がかかります。
5. POEMの実際
(Ⅰ) 粘膜下層トンネルの作成(図5)
食道の壁に経口内視鏡(胃カメラ)を挿入する入り口を作成し、食道の壁の中を通るトンネルを作ります。
(図5)
(図5)
(Ⅱ) 筋層切開(図6)
トンネルの中で、通過障害の原因である内輪筋を切開します。切開の長さは患者さんの体格や病状によって異なります。
(図6)
(図6)
(Ⅲ) entryの閉鎖(図7)
十分に通過が改善したことを確認して、トンネルの入り口を縫縮して終了です。
(図7)
(図7)
6. 当院での成績
(図8)
(図8)
2010年8月、この治療の開発者である昭和大学横浜市北部病院の井上晴洋教授の協力のもと、当院で九州初となる第一例目の手術が行われました。その後、2012年4月までに20名の方(男:女=6:14、26~84歳)に対してこの治療を行っており、これは全国でも2番目に多い症例数です。全例で大幅に自覚症状が改善し、食道造影でも明らかな通過の改善が見られました(図8)。深刻な炎症や緊急手術が必要になるなどの合併症は現在までに見られていません。
7. 患者さんの声
この症状を何年も目の前で見てきた子供たちもとても心配だったろうと思います。笑顔で子供たちに会うことができます。(47歳女性)
術後1.2日目は痛みがあったけど、3日目からはもう痛みもなく、食事が始まるのが楽しみでした。食べたときは初めすこし痛みがありましたが、胃まですーっと入っていく感じが何年かぶりで、すごく幸せな気持ちになりました。翌朝にはおなかも空いて、これもまた何年かぶりに『ぐ~』っとおなかが鳴りました。食欲もすごく出てきて、前みたいに食べるのが大好きになりました。スムーズに食べられたら、体がぽかぽかして汗も出ました。入院中は退屈だったけど、手術を受けて本当に良かったです。同じ苦しみで悩んでいる人がいたら、手術のすばらしさや体験談を話して手術を勧めたいです。これからおいしいものをたくさん食べて毎日の生活をもっと楽しみます。(26歳女性)
驚くほど通りがよくなり、大変うれしく思います。10年ほど原因がわからず、不安な時でした。本当にありがとうございます。(50歳女性)
8. 食道癌発生母地としての食道アカラシア
食道アカラシア患者さんでは、長期に食物が貯留する結果、食道癌の発生率が健常人の数倍~数十倍と言われています。食道アカラシア自体は良性疾患なので、治療の適応を決める最大のポイントは症状の強さです。しかし、見た目や症状と食道の炎症の状態が比例しないことも多いため、早めに治療することで将来の癌のリスクを減らすことができると考えられます。体に負担の少ない根治治療が実現したことで、早い段階から安全な治療が可能になったと言えます。
担当スタッフ
南 ひとみ 医師
電話&FAX 095-819-7481
E-mail le7novembre●gmail.com (●を@に変更してご使用下さい。)
食道アカラシア治療チーム 井上教授とともに
食道アカラシア治療チーム 井上教授とともに