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金沢医科大学
北村 修 |
法医解剖による死因の究明は、いわゆる「事件」や「事故」の真相解明に止まらず、臨床の現場での様々な死亡事例においても重要である。この発表では、臨床の現場に関与した乳児突然死の法医解剖例を紹介し、法医実務の役割の一端を紹介したい。
[概要]生後8ヶ月の女児が3日間にわたり嘔吐を繰り返したので、近医を受診して制吐剤や整腸剤等を処方された。しかし、嘔吐を繰り返すので翌日未明に受診し、帰宅した。しかし、その数時間後呼吸及び意識状態が低下したので搬送され、蘇生術を受けたが死亡した。出生児に異常はなく、死亡する2ヶ月半前に上気道炎の診断で受診した以外は、既往歴はなかった。
[剖検所見]外表には、明らかな損傷を認めなかったが、胸腹部大動脈及び分岐した基幹動脈の狭窄、左右冠動脈の開口部から主幹部にかけての狭窄を認めた。
最終的には病理組織学的診断によりこの病態を明らかにして、死因の診断を行ったが、学生の皆さんは、どのような病理組織所見や死因を想像するだろうか?
この症例では、死因となった疾患が特異な臨床経過をたどったことにより、臨床医による診断が困難であり、「死」という転帰をとるとは予期できなかったものである。法医実務において、このような症例を経験することは稀ではない。
臨床の現場における様々な事例の法医学的解析を行うことは、臨床の現場または医学教育に貢献できるものである。一方、法医実務には、臨床医学、すなわち疾病または外傷の病態及び臨床経過、さらに投薬や手術等の知識が要求されることも少なくない。皆さんの中から、臨床医として培った経験・知識を携えて、我々法医学者の仲間に加わってもらえる人材が出現することを期待してやまない。 |
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