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兵庫医科大学
高橋 玄倫 |
私が法医学という分野を知ったのは、高校生の時に読んだ本でした。ありきたりな入口ですが、西丸與一先生の「法医学教室の午後」と、上野正彦先生の「死体は語る」です。患者さんを相手にしない医者がいることが、当時の私にとっては驚きでした。何よりも、その内容が推理小説のようで、また、パズルを解く過程を見るようで、とても興味をひかれました。この頃から法医学者を目指したいと思うようになりました。私が臨床の医者になることを親は望んでいたようですが、とりあえず医学部に入って、法医学を選ぶかどうかは後で考える、とごまかしていました。
医学部を卒業して3年間は、出身大学の法医学教授からのご助言もあり、臨床研修をしました。東京監察医務院の統計データでは、死因の中で最も多いものは循環器疾患でしたので、循環器内科を中心に内科全般の勉強をしました。臨床研修の後、大学院を終えてから法医学に籍を移しました。
循環器領域では、近年、虚血性心疾患に対して積極的にカテーテル治療が行われています。また、新しい薬剤や治療器具も開発され、臨床現場で使用されています。しかし、心筋再生に関しては未だ道半ばです。いったん心筋梗塞に陥ると、仮に一命を取り留めたとしても心臓の機能が元に戻ることは少ないようです。この例に限らず、今の医学で、そして私の能力で助けることのできる患者さんはごくわずかなのではないか、患者さんの要求をすべて満たすことは私には到底できないのではないかと考えるようになりました。
しばしば報道されているように、臨床の過酷な現場で働く医師は不足しています。しかし、法医学の分野ではさらに人手が不足しています。どのような些細なきっかけでもかまわないので、まずは法医学に興味を持っていただき、これから共に学んでいく仲間が増えてくれれば心強く思います。 |
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