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香川大学
木下 博之 |
医学の他の領域と同様に、法医学分野でもその進歩は著しい。例えば、80年代半ばに初めて報告されたDNAによる個人識別法は、その後の分子生物学の技術的進歩に伴い急速に発展し、現在その手法はほぼ完全に確立されている。法医中毒学の領域でも、新たな試料処理法の開発、機器分析法の高感度化や自動化に伴い、各種の中毒原因物質の検索・証明においても、かつて用いられたような熟練を要する方法での分析は少なくなりつつある。検案実務の領域においても、近年のCTや超音波診断装置の導入に伴い、異状死事例の診断精度の向上が期待されている。
一方、古くて新しい問題、例えば死後経過時間の精密な判断、受傷後経過時間の推定などはまだまだ検討の余地がある。外因による各種の病態の把握と評価についても未解明な部分も多い。演者が興味を持つアルコールについても、行為能力との関連の詳細や、薬物との相互作用についてなど、科学的解明の必要な事項は多い。
死因論、病態論的にはまだ手つかずの課題は多く、若手研究者・医学生の積極的な参入を期待したい。 |
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