学生時代は,ボート部に所属していて部活動ばかりしていた典型的な“体育会系医学生”でした。将来について具体的に考えたこともなく,産業医科大学という目的大学の出身者で卒後に義務年限があるので,卒業したら何年間か臨床をしてから産業医になるのだろうと漠然と考えていました。6年生の秋になって,あまり明確な理由もなく中途半端な気持ちと成り行きで法医学の大学院へ行くことに決めました。ただし,“法医学は基礎系なので勉強好きの成績優秀者が行く”とか“生きた人を診るわけでもなく医師の行うことではない”と思っていましたので,長続きはしないだろうとも思っていました。
実際に法医学に携わってみて,その学問としての面白さに惹かれるようになりました。「どうして死後硬直は顎関節から始まって下行するのだろう・・・?」疑問を調べていくと,また疑問が湧いてきて,法医学のサイエンスとしての奥深さを知りました。また,ご遺体を解剖して,その死因や死亡までのプロセスを明らかにすることが,いかに意義深いことであるのかを身をもって経験し,このまま法医学を続けたいと心から思うようになりました。今では法医学を専門としていることに誇りを持っています。 学生時代に思っていた“法医学は基礎系なので勉強好きの成績優秀者が行く”とか“生きた人を診るわけでもなく医師の行うことではない”は,大きな誤解であったと確信しています。研究とは座学ではありませんし,決して勉強好きの人にしか出来ないようなものではありません。地道にコツコツと頭と体を使って行うもので“体育会系医学生”のほうが向いています。また,解剖以外にも仕事内容の幅は広く,それらの社会的意義は高いので医師として誇りを持って行うことの出来る仕事です。
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