腎泌尿器がん
前立腺がん
前立腺がんとは
前立腺は、膀胱の出口にあるクルミ大の臓器で、尿道を取り巻くように存在しています。
前立腺は男性にしかない臓器で、前立腺液を作っています。前立腺液は射精の際に精液と混ざることで精子を元気にする役割や精子の泳動能を高める役割があります。この前立腺にできる悪性腫瘍が前立腺がんです。
前立腺がんになると血液中のPSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーが上昇することが知られています。PSA検査の普及とともに前立腺がんの発見が増加しています。図に表すように国立がん研究センターの2016年の予測では前立腺がんの罹患率は男性で第1位、全体で第4位であり、毎年多くの方に前立腺がんが見つかっています。
前立腺がんは50代から増え始め、高齢になるほど罹患率が高くなります。
日本泌尿器科学会では50歳以上の男性にいちどPSA検査を受けることを推奨しています。
また、前立腺がんは、比較的進行がゆっくりで5年生存率が高いと言われています。
出展:国立がん研究センター(2018年のがん統計予測)より作図
出展:国立がん研究センター(がんの統計 '16)より作図
最近はPSA検査の普及も相まって早期発見される患者さんがほとんどです。しかし、中には進行した状態で発見される方もおられます。進行して転移が出現してしまうと薬で抑える治療を行うことになるため、私たちはできるだけ前立腺がんを早期発見することが重要だと考えています。
前立腺がんの症状
前立腺がんは、初期にはほとんど症状がありません。前立腺がんが進行すると、排尿困難、頻尿、排尿時痛、血尿、血精液症などが出現することがあります。
しかし、前立腺がんを発症する男性のほとんどが高齢者であるため、前立腺肥大症や過活動膀胱などの良性疾患も同時に存在していることが少なくありません。これらの疾患による症状と前立腺がんによる下部尿路症状は非常に似通っており、症状から前立腺がんを疑うことは困難なことが少なくありません。
前立腺がんは骨とリンパ節に転移しやすいことが知られています。骨転移による腰痛や頚部痛などから前立腺がんが発見されることもあります。リンパ節転移が大きくなった場合、下半身のリンパの流れが悪くなり足が腫れることもあります。
前立腺がんの診断
前立腺がんの診断の第一歩はPSA検査を受けることです。PSAの基準値は各医療機関で若干異なりますが、おおまかには4以下が正常範囲です。PSAが4以上の場合、泌尿器科への受診が勧められます。まずはエコー検査、直腸指診検査、前立腺のMRI検査を行いますが、これらの検査で前立腺がんの確定診断を得ることはできません。前立腺がんの確定診断を得るための唯一の検査が前立腺生検です。前立腺生検は、前立腺を針で刺して前立腺の組織を採取する検査で、この採取した組織の中に癌が存在していると前立腺がんと診断されます。
長崎大学病院では、前立腺周囲に局所麻酔をして、肛門から超音波検査の器械を挿入し、前立腺を観察しながら生検を行っています。検査は通常1泊2日の検査入院で行っています。
前立腺生検によって前立腺がんと診断された患者さんには、その後転移があるかどうかの検査を行います。骨シンチグラフィ検査によって骨転移を、CT検査によってリンパ節転移があるかを調べます。これらの検査結果を総合して前立腺がんのステージ診断を行います。
前立腺がんの治療
前立腺がんの治療は、前立腺がんのステージによって異なります。また転移のない前立腺がんはPSAの数値、生検で得られた前立腺がんの悪性度(グリソンスコア)、ステージを組み合わせたリスク分類に従って治療方針が決定されます。
転移がない場合
1. 手術:ロボット支援下前立腺全摘除術(RARP)
手術は、転移のない前立腺がんに対する根治治療で、前立腺と精嚢を摘出する治療法です。手術の欠点は、手術後に尿漏れや勃起障害が起こる点です。ロボット手術を行うことで従来の手術よりも少ない出血量で手術を行うことができるようになり、入院日数も以前より短くなっています。また、ロボット支援下に精密な操作が可能となり、術後の尿漏れや勃起障害も軽減しています。
2. 強度変調放射線治療(IMRT)
IMRTは、転移のない前立腺がんに対する根治治療です。前立腺の形に合わせて強度を変化させた放射線を照射する方法で、従来の放射線治療よりも大幅な副作用の軽減が可能です。
IMRTのよい点は、手術ではないため入院が不要であること、治療後の尿漏れがないことです。IMRTの欠点は、放射線照射後の頻尿、排尿時痛、排尿困難が出現する可能性があること、数年後に血尿・血便といった晩期障害が起こる可能性があることです。IMRTは特に高リスク群の患者さんに対しておすすめしています。なお患者さんの病状に応じてホルモン療法が併用されることがあります。
3. 監視療法
非常にリスクの低い前立腺がん患者さんに対して即時に治療を行わず、3~6か月ごとにPSA検査を行いながら最適な治療開始のタイミングを見計らう治療方針です。必要に応じて前立腺生検を追加で行うことがあります。
4. 小線源治療
小線源治療はシードと呼ばれる小さなカプセルを前立腺に埋め込み、このカプセルから出る放射線によって前立腺がんを治療する、根治的放射線治療の1つです。
小線源治療のよい点は体力への負担が少ない点です。小線源治療の欠点は術後の頻尿、排尿困難が出現する可能性があることと、数年後に血尿・血便といった晩期障害が起こる可能性があることです。
現在、長崎大学では行っておりませんが、本治療の希望があれば他施設へ紹介することができます。
転移がある場合
5. ホルモン療法
転移のある前立腺がん、放射線治療に併用する場合、患者さんが非常に高齢で体力的に根治治療が受けられない場合、術後の再発などの場合にホルモン療法が行われます。
前立腺がんは男性ホルモンによって増殖するため、男性ホルモンを低下させることで縮小します。男性ホルモンの95%は精巣から分泌されます。男性ホルモンの働きを抑える内服薬や注射を併用して治療する方法です。ホルモン療法は根治治療ではないため治療を継続する必要があります。
6. 化学療法
転移のある前立腺癌で高リスクの場合、ホルモン療法を行ったにも関わらず治療抵抗性となった場合に、患者さんの状態に応じて抗がん剤による化学療法を行うことがあります。状態によっては外来通院での治療も可能です。