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腎移植とは

腎移植とは、他の方から腎臓をいただいて、体内に植える手術のことをいいます。腎移植をすれば「腎臓の働き」の欄に記載した5つの機能を回復することができます。末期腎不全状態から離脱でき、ほとんどの方で透析治療が不要となります。自覚症状としては倦怠感や皮膚症状(乾燥やかゆみ)が改善します。透析療法と比較して、QOL(生活の質)と生命予後の点でメリットが大きい治療と考えられています。

血液透析 腹膜透析(CAPD) 腎臓移植
腎機能 腎機能廃絶 正常に近いレベル
(60~70%程度)
必要な手術 シャント手術
(局所麻酔)
腹膜カテーテル挿入手術
(主として局所麻酔)
腎臓移植手術
(全身麻酔)
通院回数 3回/週 1回/月 1回/1~2か月
治療による自覚症状 穿刺による痛み、
除水による血圧低下
お腹が張る 爽快感など症状の改善
免疫抑制剤 不要 不要 不可欠
食事・水分制限 多い
(蛋白・水・塩分・カリウム・リン など)
やや多い
(蛋白・水・塩分・リン など)
少ない
旅行・出張 制限あり
(通院透析施設の確保)
制限あり
(透析液・装置の準備運搬)
自由
出産 困難 困難 腎機能により可能
スポーツ ほぼ自由 腹圧がかからないように注意が必要 ほぼ自由
入浴 透析後はシャワーが望ましい カテーテルの保護が必要 問題なし
社会復帰率 中程度 やや高い 高い
その他の利点 医学的ケアが常に提供される、日本で最も確立した治療方法 血液透析に比べ自由度が高い 透析による束縛からの解放感

腎移植を受けることにより、それまで厳重に管理されていた食事や水分制限が大きく緩和され、病院への通院回数も大幅に減ります。(具体的には安定した時点で月1回程度の通院です。)旅行や運動もほぼ制限なくできるようになり、一定の条件をクリアすれば妊娠、出産も可能になります。生活の質が良くなり、一般的には腎移植以外の末期腎不全治療を受けている患者さんよりも長生きできるといわれています。米国でのデータをお示しします(USRDS2021を改変)。

  末期腎不全患者
(2019年現在)
一般米国住民
(2018年現在)
  透析患者 移植患者
年齢 女性 男性 女性 男性 女性 男性
40-44 10.2 11.1 29.9 28.2 40.4 36.5
45-49 9.1 9.6 26.0 24.3 35.8 32.1
50-54 7.8 8.2 22.3 20.6 31.3 27.8
55-59 6.8 6.9 18.9 17.3 26.9 23.8
60-64 5.9 5.8 15.7 14.3 22.8 20.0
65-69 5.0 4.9 12.7 11.7 18.8 16.4
70-74 4.3 4.1 10.3 9.5 15.0 13.0
75-79 3.7 3.5 8.3 7.6 11.5 9.9
80-84 3.2 2.9     8.4 7.2
85+ 2.7 2.4     4.3 3.7

※75歳以上すべて

安定した腎臓の機能を保つために必要なこと

毎日欠かさず、決められた「免疫抑制薬」を内服しなければなりません。腎臓はあくまで他人の臓器であり、何もしなければ「非自己」と判断され腎臓の働きが低下、最終的には機能を喪失してしまいます。そればかりか、発熱や血尿等、様々な症状が出現することがあります。このような反応を「拒絶反応」といいます。
拒絶反応を起こさないように、移植した腎臓があくまで「自己」(もともと自分の臓器)と判断されて機能が低下しないようにする薬が免疫抑制薬なのです。以前の免疫抑制薬に比べ、近年の免疫抑制薬は薬の大きさも小さくなり、副作用も比較的少なくなっていますので、お子さんからご年配の方まで、安心して内服していただけるように、専門医が調整して参ります。

移植腎機能が著しく低下したら?

丁寧な管理をしていけば、かなり長期間腎臓の機能を維持することができる方が多くなっています。残念ながら患者さんにより、年月を経て腎臓が廃絶してしまう場合があります。その場合は血液透析、腹膜透析、2次腎移植(2回目の腎移植)の中から、最適な治療方法を主治医と相談しながら決めていくことになります。腎移植の場合、移植した腎臓が廃絶すること=死亡を意味するものではありません。初回の移植腎が廃絶しても適切な体調管理により、その後も十分な寿命が期待できます。

腎移植をしてもいずれ悪くなるのに手術を受ける意味があるのか?

透析療法では体に蓄積する水分の影響で心臓への負担が大きくなり、ミネラルバランスの影響で動脈硬化が著しく悪化する場合があります。意外なことに免疫抑制薬を内服されている腎移植患者さんよりも透析療法を受けている患者さんは感染症のリスクも高く、肺炎や敗血症が発端となって命を落とす場合があります。腎移植はこれらのリスクを軽減します。たとえ数年間しか移植した腎臓が機能しなかったとしても、患者さんの寿命自体は大きく延長することが期待されます。

1,000人当たりの年間調整死亡率(明灰色:透析患者 暗灰色:移植患者)

(Meier-Kriesche HU, et al. Kidney Int. 2001より引用)

腎移植の種類

腎移植には腎機能が良好で健康な方から片方の腎臓を提供して頂く「生体腎移植」と、脳死下や心停止後の方から腎臓を提供していただく「献腎移植」があります。それぞれの長所、短所をお示しいたします。

長所 短所
生体腎移植
  • 計画的な手術が行えるため、生体腎ドナーと生体腎レシピエントがともに最善な状態で移植が可能
  • 透析離脱
  • 血液型不適合や前感作症例等、前処置が必要な患者の場合でも可能
  • 健康人(生体腎ドナー)に対して手術が必要
  • 精神的な葛藤が大きい
献腎移植
  • 健康人を傷つけない
  • 献腎ドナーがきわめて少ない
  • 移植後しばらく透析継続のケースが多い

誰がドナーになれるの?

わが国で施行する生体腎移植の場合、移植手術を受けていただく患者(レシピエント)さんと、腎臓をご提供いただく方(ドナー)さんの関係性は指針で決められており、本学でも厳守して腎移植を行っております。知人・友人等に提供することはできません。お互いにどういう関係性かということに関しては、戸籍謄本や写真付き証明書類を用いて確認させていただきます。

日本移植学会(平成15年10月27日改定)倫理指針より

先行的腎移植について

以前は、生体腎移植を受ける患者さんは、多くが腎不全となり透析を導入された方でしたが、最近ではクレアチニン値が4.0~7.0mg/dL台でまだ透析を導入されていない方も移植を希望し、未透析状態で移植を行う例も増えています。これを「先行的腎移植術」といいます。透析を開始してから腎移植を受けるよりも合併症発症や生命予後の改善に大きなメリットがあるとされ、とくに糖尿病や高血圧で末期腎不全になった方に関しては利点が大きいと言われています。

献腎移植を受けるにはどうしたらいいの?

献腎移植を希望される場合は、日本臓器移植ネットワークに待機患者として登録して頂くことになります。登録は透析療法を受けていなくても慢性腎臓病ステージ5(eGFRが15未満)になった時点で登録することができます。登録は長崎大学病院をはじめとした日本臓器移植ネットワーク関連施設で行っています。

腎移植の適応

生体腎移植の適応

生体腎移植で最も重要なことは、腎臓を提供されたドナーさんが生涯にわたり末期腎不全に陥ることがないようにすることです。したがってまずはドナーさんの腎機能が十分であることが適応条件となります。またドナーさん、レシピエントさん共に手術に耐えられる「耐術能」があること、癌や活動性感染症がないことが重要です。仮に癌や活動性感染症があっても、手術前に治療を行えば、腎移植は可能となる場合が多いです。詳しくは担当医にご相談ください。また年齢だけで全てを決めることはありません。あくまで術前検査で評価を行った上で、最終的な手術の可否を決定することになります。

ドナーさんの手術適応

腎移植は腎臓を提供してくれるドナーがいないと成り立ちません。生体腎移植術の場合、友人等が誰でもドナーになれるわけではありません。6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族であることが必要です(腎移植について「誰がドナーになれるの?」を参照してください)。その上で、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 心身共に健康であること
  2. 成人であること(なるべく80歳以下であること)
  3. 自分の意思で腎臓を提供したいと思っていること
  4. 腎機能が良好なこと
  5. 活動性感染症がないこと
  6. 悪性腫瘍がないこと または治癒していること

さらに以下の条件を満たしていることが望ましいと考えています。

  • 現在または将来、妊娠・出産する予定がないこと
  • 心疾患・糖尿病・高血圧・肝疾患など重篤な合併症がないこと
    (ドナーさんは本来健常者ですので、手術を受けるリスクは極力軽減させる必要があります。これらの疾患を認めた場合追加検査を実施し、腎提供をお断りする場合があります。)

日本臨床腎移植学会から示されているドナー適応ガイドラインはウェブサイトで公開されていますのでご参照ください。

生体腎移植のドナーガイドライン

献腎移植の適応

献腎移植の適応は、生体腎移植のレシピエント適応と大きな差はありません。ただし、現時点では登録から臓器提供までの待機期間が長いため、耐術能が維持できるように十分な全身管理や透析管理が必要です。

腎移植を受けるに際し知っておいてほしいこと

レシピエントさんに知っておいてほしいこと

日本では従来から献腎移植の提供者が少なく、主に生体腎移植が行われてきました。生体腎移植は、健康な人がドナーとなり、片方の腎臓を提供する手術を受けなければならないということが最も大きな問題です。生体腎移植・献腎移植どちらも末期腎不全の根治的な治療法ですが、ドナーさんの尊い意志のもとに行われている治療であることを十分にご理解ください。

末期腎不全患者さんであるレシピエントにとって、腎移植は透析治療から解放されることが一番大きなメリットです。食事制限が緩和され、水分制限がなくなります。透析療法目的に頻回の通院等社会的制約があった状況から、健常者とほぼ同様の日常生活を送ることが可能となります。また、透析治療を長期間行うことによって起こってくる動脈硬化、骨障害、アミロイド症、心不全などの合併症の進行を、腎移植によって止めることができます。シャント障害や腹膜透析時に問題になる硬化性腹膜炎に悩まされることもありません。尿毒症状態から開放されることにより体が軽くなります。皮膚が綺麗になり、痒みも改善します。腎不全状態から離脱することにより味覚障害が改善され、食欲が増進します。

しかし、腎移植を受ければ夢のような生活が待っている、というわけではありません。腎移植後は決まった時間に決められた量の免疫抑制薬を内服し続けなければ腎臓はすぐ悪くなってしまいます。きっちり内服をし続けても、移植された腎臓の機能が悪くなり透析医療に戻らなければならないことや、まれではありますが移植を受けたがゆえ亡くなる時期が早くなる可能性もあります。

腎移植は良いことも悪いことも全て受け入れて、ご家族全体で同意を得て受けていただく治療なのです。

ドナーさんに腎提供をするにあたって考えてほしいこと

腎臓の提供を考えている自身やご家族が、提供手術前の色々な検査の目的と危険性、提供手術の方法と危険性、また手術後にどのような経過を経て元の生活に戻って行かれるか、また手術の前後にどのような問題が起こる可能性があるか、腎臓提供手術後長期間経過して起こりえる問題の可能性をよく理解していただくことが重要です。
ご自身の腎臓を提供し生体腎移植を行うかどうか決定される際、移植の利益と危険性、腎臓を提供することに関わる危険性を十分理解した上で、誰からの強制もなく、自発的な意思で提供を申し出られていることが、生体腎移植医療には一番重要なことになります。

私たちの思い ~ドナーさんの健康管理~

生体腎移植のドナーになるということは、簡単に決められることではありません。腎臓の片方を提供して患者さんを助けたいという強い意思はもちろん大切ですが、明らかにドナーが危険にさらされるような手術は出来ません。どんな手術も100%安全だという保証はありませんが、出来る限りドナーにとって危険が及ばないよう、私達は慎重に検討していきます。
またドナーの方には、手術前からはもちろんですが手術後も、ドナーの健康を維持するために、ドナー自身にも責任を持って生活するよう心がけてもらう必要があります。

大切なこと ~家族のサポート体制~

生体腎移植では1つの家族から2人が手術を受けることになります。精神的にも家族の負担が大きくなります。そのため、レシピエントとドナーだけでなく、家族やその他周囲の人の協力や支援が必要です。移植前からそれらの人達に理解してもらい、協力と支援が得られるよう準備することが大切です。
生体腎移植で大切なことは、ドナーの家族(兄弟姉妹間での移植ならドナーの家族、夫婦間での移植ならドナーの肉親)もドナーとなることを理解し、納得されているということです。時には反対されることもあるでしょう。反対を押し切ってドナーになることで、移植後、家族の間でしこりが残る可能性があります。ドナーになると決めた時点から、家族・肉親の方々としっかり相談してください。必要があれば、ドナーの家族・肉親の方にも来院してもらってください。医師より十分な説明をいたします。