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ロボット支援腹腔鏡下仙骨腟固定術

病名・病態

骨盤臓器脱とは、骨盤内(膀胱、子宮、直腸)の支持組織が脆くなることで骨盤内の臓器が膣へ下垂する疾患です。主に下垂または脱出した臓器に応じて、膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤と呼びます。骨盤臓器脱に伴う違和感、下垂感や排尿困難があり、根治を目指す方に手術療法の適応が考慮されます。

目的・必要性・有効性

骨盤臓器脱は症状が主な病気であり、命にかかわることがないため、患者さんが希望された場合に手術の適応となります。臓器が出ていることによる不快感に加えて、排尿困難、残尿感、頻尿、排便困難等の症状に対しても改善が期待されます。

今回の治療における当院の実績について

当院では従来から行われていた骨盤臓器脱に対する腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)の手術経験、そして泌尿器科および産婦人科領域における他疾患に対する豊富なロボット手術の経験があります(骨盤臓器脱に対する手術230例、2023年11月現在)。

当院の設備・体制について

当院泌尿器科では2014年9月よりロボット支援手術を開始し、2023年時点で1,100例以上のロボット支援手術を行ってきました。現在、日本で使用できる手術支援ロボットの最新機種である“ダヴィンチXi”が導入されております。また、ロボット支援手術に精通したスタッフ(泌尿器科医、麻酔科医、手術室看護師、臨床工学技士等)が揃っています。

術者の専門的資格及びこれまでの経験について

当院泌尿器科には日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会が認定した泌尿器科腹腔鏡技術認定医がおり、執刀医もしくは指導的助手として手術を担当します(2023年6月時点で6名)。また、ロボット支援手術に熟練し指導的立場にある泌尿器ロボット支援手術プロクターの資格を有する医師も複数所属しております(2023年6月時点で4名)。

治療内容・注意事項について

仙骨腟固定術は、子宮頚部を残して子宮を亜全摘し、ポリプロピレン製メッシュで腟と仙骨を固定する方法です。

2020年4月に骨盤臓器脱に対するロボット支援下仙骨腟固定術が保険適用となり、現在は保険診療で手術を受けていただくことが可能です。当院では従来から行われていた骨盤臓器脱に対する腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)の手術経験 、そして泌尿器科および産婦人科領域における他疾患に対する豊富なロボット手術の経験があります(2023年11月現在)。ロボットの操作には熟練が必要なため、執刀は最新のダヴィンチXi手術システムの使用のためのIntuitive Surgical社認定ライセンスを受けた医師およびロボット手術チームが担当します。なおロボットが独自に手術を行うのではなく、術者(執刀医)が機器(ロボット)を操作して行うだけであり、あくまで術者が手術を行い、機器が精密な動きや詳細な画面を補助します。開腹手術と比較して腹腔鏡下による低侵襲手術の利点には、より早い術後の回復および経口摂取、より短い入院期間、術後疼痛の軽減、美容上の美しさなどが挙げられます。そして腹腔鏡手術をロボット支援で施行することでさらに細やか且つ正確な操作がしやすいため、より精度の高い手術が可能です。

従来の手術による開腹手術や腹腔鏡手術に比べて、以下の点で優れていると考えられています。

  • 傷が小さく痛みが軽度。
  • 術後の回復が早い。
  • 出血量が少ない。
  • より繊細で、正確な手術を行うことができる。

具体的な手術の方法

全身麻酔にて手術を施行します。ロボット支援腹腔鏡下仙骨腟固定術は、子宮頚部を残して子宮を亜全摘しポリプロピレン製メッシュで腟と仙骨を固定する方法です。腹部に5か所の穴をあけて、トロッカーを呼ばれる細い筒を挿入します。炭酸ガスで腹腔内を拡げて、手術を行うスペースを作ります。先のトロッカーにロボットを接続させてカメラやロボット鉗子を腹腔内に挿入します。腹腔内で子宮の周囲を剥離し、子宮を支持している靭帯や子宮を栄養する血管の切断を行います。子宮は腟上部切断術(子宮体部のみ摘出し、子宮頚部は温存)を行いますが、症例に応じて子宮を全摘する場合もあります。また基本的に子宮に付属している卵管は同時に摘出し、卵巣は閉経後の方は摘出しています。膀胱と腟の間を剥離して、メッシュを入れる空間を作ります。メッシュを膀胱と腟の間に挿入し、腟断端もしくは子宮頚部に縫合固定します。メッシュの先端を仙骨岬角前面の靭帯に固定します。症例に応じて膀胱と腟の間にメッシュを入れる他、腟と直腸の間にもメッシュを挿入することがあります。子宮の摘出する方法は腟から、もしくは腹部の創部の1か所を広げて摘出します。

手術直後の状態について

尿道カテーテルを留置します。創部は、下腹部に5か所のみです。

予測される術後経過について

術翌日より食事および歩行が可能です。術後1日目に尿道カテーテルを抜きます。腸閉塞や発熱がなければ、術後4日目以降に退院できます。術創が完全に治れば、性行為は可能です。退院後は外来で創部や排尿状況を確認します。

上記はあくまで順調な経過の場合です。経過には個人差があります。また一定の割合で合併症を併発することが知られており、治療を要する場合があります。万一合併症が発生した場合は、担当医から逐次ご説明いたします。

副作用・合併症・偶発症の危険性と発生率およびその発生時の対応

(以下に示すデータ:2023年11月7日現在)

手術中

発生率 対応
出血 数% 手術は、血管を処理しながら慎重に行いますが、それでもある程度の出血が予想されます。一般的に、開腹手術に比べて腹腔鏡手術やロボット支援手術では出血量は少ないものの、予想以上の出血があった場合には輸血が必要になる場合や、開腹手術に移行する場合があります。
周囲臓器損傷 2-3% 膀胱と直腸は子宮と隣あわせのため、手術の操作などにより、やむを得ず膀胱や直腸に損傷をきたすことがあります。万一、損傷した場合には、小さい損傷ではそのまま縫合して様子をみますが、直腸の損傷部位が大きい場合には一時的に人工肛門をつくらなければならない場合があります。腹腔鏡を用いても開放手術でも周囲の臓器損傷の危険性は同様にありますが、臓器損傷が起こった場合には腹腔鏡手術から大きな切開をおく開腹手術に移行する場合があります。また、膀胱損傷の場合には1週間以上の尿道カテーテルの留置が必要となります。直腸損傷の場合には程度に応じて絶食が必要となります。
ガス塞栓 約0.001% 手術用ガス(二酸化炭素)が血管の中に入って血流の悪化を引き起こすもので、まれではありますが突然の血圧低下や不整脈を伴う危険な合併症です。ガス塞栓を疑った場合は即座に手術用ガスを止めた上で純酸素を吸入する必要があります。その後、血圧・酸素化などの全身状態が改善し、手術継続が可能であれば、開腹手術へ移行する場合があります。
皮下気腫 0.3-3% 腹腔内に注入する手術用ガスが皮膚の下にたまることがあります。通常は経時的に自然に吸収されますが、頚部まで皮下気腫が広がり気道の圧排による呼吸不全が考えられる場合は、気道確保が必要なため、術後も気管挿管を維持し麻酔からの覚醒が遅れる場合があります。

極めてまれですが、手術支援ロボットや他の手術関連の機器不良のために、麻酔をかけた後に手術が開始できないことがあります。また、手術中引き返すことが出来ない時点で機器不良等が発生し、本手術が続行不可能になることも非常に低い確率ですがありえます。その場合、通常の腹腔鏡下手術で続行することを試みますが、それでも不可能な場合は、開腹手術へ移行します。

手術後

発生率 対応
皮下気腫 0.3-3% 手術用ガスが皮膚の下にたまって不快な感じのすることがありますが、数日で自然に吸収されます。
深部静脈血栓症による肺梗塞 約0.03% 手術中・手術後に足や骨盤の静脈に血栓をきたすことがあります。できてしまった血栓が肺・心臓・脳などに入り梗塞をおこすことがあります。これは非常に生命に危険な合併症です。これを予防するため、術中から術後にかけて下肢に弾力性のある包帯を巻き、足をマッサージする装置を装着するなどの予防処置をします。
感染症 数% 創部の感染が起こった場合は、通常は適切な抗菌薬治療で対処できますが、重症化した場合には留置したメッシュを摘出することもあります。
腸管の合併症 約13% 手術後に腸閉塞という状態がおこる可能性があります。多くの場合が術後の一過性の腸管麻痺によるものです。絶飲食の上、腸管の蠕動を促す薬剤を使用し、鼻から胃・腸管までチューブを留置する処置が必要になる場合もあります。腸閉塞や縫合不全、創ヘルニアが高度になると、開腹手術を行って癒着の解除や修復手術が必要になる場合があります。
術後排尿障害 約5% 手術により膀胱の位置が矯正され、排尿の感覚が変わり、排尿困難や尿失禁が起こる場合があります。症状が持続する場合には内服薬の治療や手術療法などが必要になる場合があります。
メッシュの露出・感染 3-9% 留置したメッシュが膣内に露出することがあり、膣出血と排出部を伴う症状が出現します。メッシュが感染した場合にはメッシュの除去が必要になる場合があります。

これらの合併症は、従来行ってきた腹腔鏡手術と比較し、ロボット支援手術で同等もしくは低頻度であるとされています。

その他

万全の注意を払って手術を行いますが、実際の手術では上記以外にも予想し得ない合併症が起こることがあります。万一合併症が起こった場合には、速やかに適切な対応をいたします。

直接手術に関連しない合併症:まれに脳梗塞,肺梗塞,狭心症,心筋梗塞など主として高齢者に多い血管疾患が発症することがあります。いつでも起こりうることが、偶然、入院中、もしくは手術中に発症するものです。手術を直接の原因とするものではありませんが、診断次第、迅速に対処いたします。

本人の立場で医療チームが判断し、患者にとって最善と思われる選択を行います。ここに記載した以外の不利益や、それ以外の予想できないが有害事象・合併症が出てくることがあるかもしれません。何か変わったことや気付いたことなどがありましたら、医師にお知らせください。診察・検査を行い、患者にとって適切な治療を行います。また、緊急となる状況が発生した場合は、対処する緊急処置を行います。