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ロボット支援腎盂形成術

病名・病態

腎臓で作られた尿は、腎盂に集められた後、尿管を通って膀胱に溜まります。腎盂尿管移行部狭窄症とは、腎盂と尿管のつなぎ目(腎盂尿管移行部)が何らかの原因で狭くなり、尿の流れが悪くなっている疾患です。尿の流れが悪くなり、腎盂内に尿が充満する水腎症という状態になると、腰や背中の痛みが出現するだけでなく、腎機能の悪化や無機能腎、結石形成にもつながります。腎盂腎炎を合併すると重症感染症に移行する可能性があります。
狭窄の原因には様々な要因が関わっていますが、内因性狭窄(もともと腎盂尿管移行部が狭いもの;尿管狭窄、尿管ポリープなど)と外因性狭窄(異常血管により腎盂尿管移行部が圧迫されているもの;交差血管など)が多いとされています。また、近年は胎児期・乳幼児期にエコー検査で指摘されることが多く、無症状のまま経過し成人となってから発見されることもあります。発生頻度は、1000から2000人に1人と言われています。

腎盂尿管移行部狭窄の原因
(左:内因性狭窄、右:交差血管による外因性狭窄)

(引用)campbell-Walsh Urology

目的・必要性・有効性(過去の実績を含む)

症状がある場合や腎機能障害がある場合、徐々に水腎症が悪化している場合には治療が必要となります。治療には、尿管ステントの留置・定期的な交換をする方法などがありますが、根治を目指すには、腎盂形成術という手術を行うことが一般的です。腎機能が残存している場合や腎機能の回復が期待できる場合に手術の適応となります。腎盂形成術とは、腎盂尿管移行部の狭くなった部分を切除し、腎盂と尿管を再度つなぎ合わせるという手術法です。交差血管が原因の場合には血管が尿管を圧迫しない位置で腎盂と尿管をつなぎ合わせます。当院では以前より開腹下や腹腔鏡下で腎盂形成術を行ってきましたが、2020年4月よりロボット支援腎盂形成術が保険適用となりました。手術支援ロボットを用いることで手術時間の短縮やより正確な切除・縫合が可能となります。

腎盂尿管移行部狭窄症に対する腎盂形成術は国内外を問わず広く行われていますが、開腹手術では手術中の出血量が多くなる可能性が高いこと、手術時間が長いこと、傷が大きく(成人例では約20cm前後)術後の痛みが強いこと等の問題点があげられます。そのため術後の回復が遅く、社会復帰に時間がかかる手術であるとされています。この開腹手術の欠点を克服するために考案されたのが腹腔鏡手術です。

腹腔鏡手術では出血量が減少し、術後の痛みが軽減し、結果として早期の社会復帰が期待できる非常に利点の多い術式と考えられましたが、技術的に操作性の限界があるということが欠点でした。2012年4月にロボット支援手術が保険適用となって以来、ロボット支援手術に習熟した術者が増加し、2020年4月より腹腔鏡下腎盂形成術をロボット支援で行うことが保険適用となりました(本術式は高難度新規医療技術です)。手技的には、腹腔鏡手術と類似の操作をロボット支援下に行うものですが、従来の腹腔鏡下手術では困難な操作が可能になり、より繊細で、正確な手術を行うことができ、根治性、安全性においてより優れていると考えられています。

従来の手術による開腹手術や腹腔鏡手術に比べて、以下の点で優れていると考えられています。

  • 傷が小さく痛みが軽度。
  • 術後の回復が早い。
  • 出血量が少ない。
  • より繊細で、正確な手術を行うことができる。

治療内容・注意事項について(予想される経過)

本術式は高難度新規医療技術であり、院内に設置されている高難度新規医療技術評価委員会での承認を得て実施しております。

ロボット支援腎盂形成術の手順

  1. 全身麻酔下に手術を行います。
  2. 病変が左の場合は右下側臥位(横向き)、病変が右の場合は左下側臥位(横向き)になります。
  3. お腹に0.5-2cmの穴を4-5個あけて手術を始めます。
  4. 狭窄している尿管や腎盂を圧排している血管などを把握します。
  5. 尿管を切除し、余剰な腎盂粘膜は摘除します(狭窄部の切除)。
  6. 尿管の中に細い管(尿管ステント)を留置して、腎盂と尿管を吻合します(腎盂と尿管の吻合)。
  7. 手術した場所にたまった液体の排除や術後の観察のためにドレーンという管を留置します。
  8. 手術時間はおよそ3-4時間を予定しています。
  9. 術中血圧・酸素化などの全身状態により必要に応じて血液検査等を実施することがあります。

腎盂形成術の手順
(A:狭窄部の切除、B:腎盂と尿管の吻合)

(引用)campbell-Walsh Urology

一般的な術後経過

  • 手術した場所に入れておく管(ドレーン)がおなかに入っていますが、術後2-5日で抜去します。(状態に応じて長くなることもあります)。
  • 尿道カテーテルは、病態によりますが、2-3日で抜去します。
  • 術後数日でベッドに座るところからはじめ、歩行していただきます。
  • 術当日は絶飲食ですが、翌日以降、病態に応じて水分、食事を摂ることができます。
  • 術後数日は感染がなくても発熱がみられることがあります。
  • 術後約1週間で退院となります。
  • 術後3カ月を目安に外来で尿管ステントを抜去します。

上記はあくまで順調な経過の場合です。経過には個人差があります。また一定の割合で合併症を併発することが知られており、治療を要する場合があります。万一合併症が発生した場合は、担当医から逐次ご説明し、保険診療で治療を施行いたします。

副作用・合併症・偶発症の危険性と発生率およびその発生時の対応

(以下に示すデータ:2024年3月4日現在)

手術中

発生率 対応
出血 数% 手術は血管を処理しながら慎重に行いますが、それでもある程度の出血が予想されます。一般的に、開腹手術に比べて腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)では出血量は少なく、輸血や血液製剤の投与を要するような出血を来すことはほとんどありませんが、予想以上の出血があった場合には輸血が必要になる場合があります。
周囲臓器損傷 約1% 腎は腹腔内において小腸や大腸をはじめ肝臓・脾臓・膵臓などと隣あわせのため、繰り返す腎盂腎炎などによる癒着、さらには手術の操作などにより、やむを得ず損傷をきたすことがあります。万一、損傷した場合には、修復を行います。腹腔鏡を用いても開腹手術でも周囲の臓器損傷の危険性は同様にありますが、臓器損傷が起こった場合には腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)から大きな切開をおく開腹手術に移行する場合があります。
開腹手術への移行 約5% 腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)では操作が難しい場合、出血、他の臓器の損傷、高度の癒着や手術合併症により安全性が確保出来ない場合は、開腹手術へと変更することがあります。
ガス塞栓 約0.001% 手術用ガス(二酸化炭素)が血管の中に入って血流の悪化を引き起こすもので、まれではありますが突然の血圧低下や不整脈を伴う危険な合併症です。ガス塞栓を疑った場合は即座に手術用ガスを止めた上で純酸素を吸入する必要があります。その後、血圧・酸素化などの全身状態が改善し、手術継続が可能であれば、開腹手術へ移行する場合があります。
皮下気腫 0.3-3% 腹腔内に注入する手術用ガス(二酸化炭素)が皮膚の下にたまることがあります。通常は経時的に自然に吸収されますが、頚部まで皮下気腫が広がり気道の圧排による呼吸不全が考えられる場合は、気道確保が必要なため、術後も気管挿管を維持し麻酔からの覚醒が遅れる場合があります。

極めてまれですが、手術支援ロボットや他の手術関連の機器不良のために、麻酔をかけた後に手術が開始できないことがあります。また、手術中引き返すことが出来ない時点で機器不良等が発生し、本手術が続行不可能になることも非常に低い確率ですがありえます。その場合、通常の腹腔鏡下手術で続行することを試みますが、それでも不可能な場合は、開腹手術へ移行します。

手術後

発生率 対応
尿瘻 約5% 腎盂と尿管の吻合部より体内に尿が漏れることがあります。体内に漏れた尿はドレーンから体外へ排泄されます。吻合した腎盂と尿管がしっかりつながるように、尿管ステントの位置調整を行う場合や尿道カテーテルの留置期間を延長する場合があります。
皮下気腫 0.3-3% 二酸化炭素が皮膚の下にたまって不快感を自覚することがありますが、数日で自然に吸収されます。
深部静脈血栓症による肺梗塞 約0.03% 手術中・手術後に足や骨盤の静脈に血栓をきたすことがあります。できてしまった血栓が肺・心臓・脳などに入り梗塞をおこすことがあります。これは生命に危険を及ぼす合併症です。これを予防するため、術中から術後にかけて下肢に弾力性のある包帯を巻き、足をマッサージする装置を装着するなどの予防処置をします。
感染症 2-35% 傷の感染や腹膜炎、骨盤内の感染がおこることがあります。また、尿路の感染症をきたすこともあります。薬が効きにくい細菌に感染すると創の治りが遅れることがあります。感染部位によっては重篤になることもあります。感染をきたした場合、抗菌薬の使用や処置が必要になります。
腸管の合併症 10-22% 手術後に腸閉塞という状態がおこる可能性があります。これは、腸管の麻痺が続く場合は鼻から胃・腸管までチューブを留置する処置が必要になります。腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)、開腹手術でも同様に起こりえますが、腹腔鏡手術(ロボット支援手術を含む)では腸管の麻痺の期間などがより短縮されると報告されています。腸閉塞や縫合不全が高度になると、開腹手術を行って癒着の解除や修復手術が必要になることがあります。
尿路再狭窄 5-10% 手術中に留置した尿管ステントは術後3カ月を目安に外来で抜去しますが、尿管ステント抜去後に手術した部位の尿の通過性が改善せず、水腎症が持続する可能性があります(尿路再狭窄)。手術した腎臓の機能がさらに低下するような場合は、尿管ステント再留置・定期的な交換の継続、再手術、腎臓摘出や腎瘻造設など、追加治療が必要になることがあります。
創ヘルニア、傍ストーマヘルニア、鼠径ヘルニア(脱腸) 約1% 創の下の筋膜がゆるんで、腸が皮膚のすぐ下に出てくる状態で、再手術が必要になることがあります。

これらの合併症は、従来行ってきた腹腔鏡手術と比較し、ロボット支援手術で同等もしくは低頻度であるとされています。

その他

直接手術に関連しない合併症:まれに脳梗塞、肺梗塞、狭心症、心筋梗塞など主として高齢者に多い血管疾患が発症することがあります。いつでも起こりうることが、偶然、入院中、もしくは手術中に発症するものです。手術を直接の原因とするものではありませんが、診断次第、迅速に対処いたします。

本人の立場で医療チームが判断し、患者さんにとって最善と思われる選択を行います。ここに記載した以外の不利益や、それ以外の予想できないが有害事象・合併症が出てくることがあるかもしれません。何か変わったことや気付いたことなどがありましたら、医師にお知らせください。診察・検査を行い、適切な治療を行います。また、緊急となる状況が発生した場合は、対処する緊急処置を行います。