副腎腫瘍
副腎腫瘍とは
副腎は、左右の腎臓の上にある5cm×3cmほどの小さくて薄い臓器です。
副腎の役割は人間が生きていくのに必要なホルモンをつくることです。副腎は皮質と髄質に分かれ、それぞれからホルモンが分泌されます。
副腎皮質ホルモン | アルドステロン、コルチゾール、アンドロゲンなどがつくられます。 |
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副腎髄質ホルモン | カテコラミン(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)がつくられます。 |
副腎に腫瘍ができると、これらのホルモンを過剰につくってしまうことがあります。ホルモンを過剰に分泌するかどうかで、副腎腫瘍は機能性副腎腫瘍と非機能性副腎腫瘍に分類されます。また、頻度としては少ないのですが、副腎皮質癌という悪性腫瘍ができることもあります。肺癌や胃癌、腎癌など他の臓器にできた癌が副腎に転移することもあります。
ここでは、機能性副腎腫瘍として代表的な3つの疾患を説明します。
原発性アルドステロン症
アルドステロンは、ナトリウムという塩分を体に蓄える働きがあります。副腎腫瘍によるアルドステロンの過剰分泌により塩分が過剰に蓄えられることで高血圧が引き起こされます。原発性アルドステロン症は、高血圧症の患者さんの約10%に見つかるといわれており、手術で副腎を摘出することで高血圧が完治する可能性があります。
副腎性クッシング症候群
コルチゾールは、炭水化物、脂肪、タンパク代謝を制御しており生体にとって必須のホルモンです。肉体的・精神的なストレスでコルチゾールの分泌量は増加し、生体を守る役割を果たしています。コルチゾールの産生は脳下垂体から分泌されるACTHというホルモンによって調節を受けており、人間の生体リズムを整える重要な役割があります。副腎腫瘍がコルチゾールを過剰に作るとさまざまな症状が出現します。
褐色細胞腫
副腎腫瘍がカテコラミンを過剰に作る疾患です。カテコラミンは血管の収縮に強くかかわっており、興奮したときなどにも分泌量が増加します。高血圧、動悸、頭痛などの症状で見つかることがあります。褐色細胞腫の腫瘍は比較的大きくなりやすく、放置すれば突然死の可能性もある病気です。
副腎腫瘍の症状
副腎腫瘍の症状は、ほとんどの場合過剰につくられるホルモンによって引き起こされます。副腎腫瘍が小さいうちは、腫瘍そのものによる症状はあまりありません。他の病気を調べているときにたまたま副腎腫瘍が見つかることもよくあります。腫瘍が大きくなると背部痛などの圧迫症状が出ることがあります。 ここでは代表的な機能性副腎腫瘍による症状をご説明します。
原発性アルドステロン症
アルドステロンが腫瘍によって過剰分泌されると、ナトリウムが過剰に蓄えられることによって高血圧になります。また、カリウムの排泄が多くなり、低カリウム血症になることもあり、筋力が落ちたり、つりやすいなどの症状が出ることもあります。
クッシング症候群
コルチゾールの過剰分泌および日内変動の消失により、さまざまな症状が引き起こされます。代表的な症状は高血圧、高血糖、中心性肥満、野牛のような肩のこぶ、多毛などです。また皮膚が薄くなって血管の壁がもろくなるのですぐに皮下の内出血ができやすくなります。さらに精神的にもうつ傾向になることが知られています。
褐色細胞腫
褐色細胞腫は大きく5つの症状があります。
高血圧、高血糖、代謝亢進、頭痛、発汗過多
このほかに、脈が速くなる、不整脈、立ち上がるときにめまいがする(起立性低血圧)、過呼吸、皮膚が冷たいのに湿っている、胸が苦しい、みぞおち付近が痛む、呼吸困難感、便秘といった多彩な症状が現れることがあります。
副腎腫瘍の診断
副腎腫瘍の診断には腹部CTや腹部MRIなどの画像検査が有用です。また、副腎腫瘍がホルモンを過剰に分泌しているかどうかを調べるためにホルモン検査が必要です。以下、代表的な疾患の診断について説明します。
原発性アルドステロン症
まず血液検査でアルドステロンとレニンというホルモンを調べます。アルドステロンとレニンの比が200以上の時この病気を疑います。続いて、カプトプリル負荷試験、立位フロセミド負荷試験、ACTH負荷試験が行われ、これらの検査によって原発性アルドステロン症の診断が確定します。
アルドステロンを過剰に分泌する腫瘍は比較的小さいものが多く、CTではわからないことがあります。また、両方の副腎にアルドステロンを分泌する腫瘍ができる場合もあります。両方の副腎に腫瘍がある場合と片方の副腎に腫瘍がある場合では治療法が異なります。原発性アルドステロン症ではカテーテル検査を行い、両方の副腎から直接血液を採取し、どちらの副腎からアルドステロンが過剰分泌されているかを調べる必要があります。この検査を副腎静脈サンプリングと呼びます。

図1:原発性アルドステロン症
副腎性クッシング症候群
副腎腫瘍からコルチゾールが過剰に分泌されると、血液中のACTHが低下します。また、デキサメタゾンという副腎皮質ホルモンの薬を投与してもコルチゾールが十分に下がらない場合に本疾患が疑われます。画像検査にはCTが有用であり、腫瘍と反対側の副腎は小さくなっているのが特徴です。また、123I-アドステロールシンチグラフィを行い副腎腫瘍にホルモン活性があるかを調べます。

図2:クッシング症候群
褐色細胞腫
褐色細胞腫を疑った場合、まず血液検査でカテコラミン(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)を測定します。また、一日の尿を貯めて検査を行い、尿中のカテコラミンやカテコラミンの代謝産物(メタネフリン、ノルメタネフリン)を測定します。褐色細胞腫の診断にはMRI検査での画像所見が重要です。さらに、123I-MIBG副腎シンチが行われます。これらの検査所見を組み合わせて、褐色細胞腫の確定診断がなされます。

図3:褐色細胞腫
副腎腫瘍の治療
副腎腫瘍の基本的な治療方針は手術による摘出です。腫瘍のできた側の副腎を腫瘍ごと摘出します。両側副腎に腫瘍ができた場合などには降圧薬など症状を抑える内服治療が行われることもあります。
機能性副腎腫瘍に対しては手術が勧められますが、ホルモンを作らない非機能性副腎腫瘍に対しては通常経過観察が行われます。ただし、徐々に大きくなってくる腫瘍や4cmを超える腫瘍は悪性腫瘍の可能性がありますので手術が勧められます。
副腎腫瘍の手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。現在ではほとんどの患者さんに対して腹腔鏡手術が行われていますが、11cmを超える大きな腫瘍や、悪性腫瘍を疑う場合には開腹手術が行われます。近年、ロボット支援手術も保険収載されています。
手術は全身麻酔をかけ、腫瘍のある側を上に向けた側臥位(横向きの姿勢)で行われます。
また頻度は少ないのですが、副腎に悪性腫瘍ができた場合には薬物療法が行われることがあります。