臨床活動
 手術麻酔はよく飛行機のフライトに例えられます。麻酔科医はパイロットとして、乗客である患者さんを目的地に着くまで、つまり手術が終わるまで管理しなければなりません。麻酔の導入・覚醒は、飛行機の離陸・着陸と同じくトラブルの起きやすい時期です。飛行機を操縦する上でパイロットのわずかなミスが大きなトラブルに繋がるのと同じように、麻酔での麻酔科医のミスは、正常な代償機構が麻酔により抑制されている患者さんにおいては容易に生命を脅かすトラブルへと繋がります。
 われわれは手術を無事に終えることだけを目標としていません。患者さんが術後も安楽に過ごせるように手術中の管理を行います。もし術前の状態が悪ければ、全身状態を良くするために積極的に介入し、術前よりも良い状態で術後を迎えるような管理を行います。飛行機で言えば、狭いエコノミーに乗った長旅では目的地に到着しても疲労感で一杯になります。しかしファーストクラスに乗っていれば長旅で目的地に着いた後も元気で過ごせ、逆に体調が悪くても飛行機内で十分な休息を取ることで目的地に着いたときは搭乗前よりも元気になれている、その様な全身管理を行うということです。
 飛行中に仮に悪天候や機器のトラブルに遭遇したとしても、パイロットの腕次第で危機を回避し、場合によっては危機に遭遇したことさえも気づかないまま過ごすことが出来ます。術中にどんなトラブルが起きたとしても、患者さんを安全に快適に手術終了まで管理することができる麻酔科医でなければいけません。そのためには当然ながらマニュアルに縛られた対応ではなく、状況に合わせた最善、最適な判断を迅速に行えるような麻酔科医にならなければなりません。そのためには理論的背景をベースとし状況に合わせた論理的な思考を組み立て、速やかに実行に移す能力が必要です。