法医剖検例では豚脂様凝血と称される特殊な凝血が認められることがあります。豚脂様凝血は古くから教科書に言及されていますが、その内容は遷延死と法医学では呼ばれている“死亡までに時間を要する死”において多く見られると記載されているのみで、その成因や死因との関連は明らかになっていません。
つまり、豚脂様凝血が生じる原因や豚脂様凝血の構成蛋白質等に関して、死因究明の精度向上の観点から科学的な解明が必要です。
近年、免疫に関わっている好中球が、肺炎等の感染症の際に周りからある種の刺激を受けると、細胞外に粘性のDNAを放出し、細菌を捕捉・殺菌する「好中球細胞外トラップ」という現象が生じることが報告されました。また、この現象が好中球のプログラムされた細胞死であることも明らかにされ、NETosisという概念が提出されました。
我々は肺炎や敗血症と言った病気による死亡が遷延死であり、また感染症による死亡でもあることから、これらの病態ではNETosisが生じており、その結果、豚脂様凝血が生成されるのではということを仮定し、研究を行いたいと考えています。具体的な方法ですが、豚脂様凝血を対象としてNETosisに関連する蛋白質が発現・存在しているか否かを、免疫組織学的法という特殊な方法を用いて蛋白質を可視化してから顕微鏡を用いて確認します。
この研究の結果により、豚脂様凝血の法医学的意義を明らかにすることで、法医学での死因診断の精度向上に繋がることが期待されます。
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