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精神神経疾患の患者由来の遺伝子変異がSLITRK1の機能を変えることを発見
Hatayama et al., Commun Biol (2022)

これまでにSLITRK1遺伝子の変異はトゥレット障害、抜毛症、強迫性障害の患者から報告されてきました。私たちは精神神経疾患(統合失調症、気分障害)患者の遺伝子配列解析を行い、気分障害の患者に多いSLITRK1ミスセンス変異A444S(444番目のアラニン残基が、セリンに置換されている)を見いだすことができました。

A444S変異がSLITRK1タンパク質の機能に及ぼす影響を調べてみたところ、強く発現させたときに脳の中でノルアドレナリン性神経細胞の神経突起の伸展を抑える活性が無くなっていることがわかりました。この変異はまたSLITRK1のNeurofascin結合特性を変化させる性質もあります。

一方、S330Aは健常人の中にも一定の割合で見られるSLITRK1の変異の1つですが、興味深いことに現生人類(Homo sapiens)がネアンデルタール人との共通の祖先から、進化する過程で獲得された変異(A330S)の先祖返り型(revertant)です(図)。この変異もまた、SLITRK1が神経突起の伸展を調節する能力や、シナプスを誘導する能力を変化させることがわかりました。

これらの結果はSLITRK1と精神神経疾患の関係を考える手がかりや現生人類の脳の進化におけるSLITRK1の役割を考える上で参考になる知見の1つと言えるかもしれません。しかし、今回、我々が報告したタンパク質の機能を変化させる変異やこれまでに報告されてきたSLITRK1の変異は非常に稀なものであり、SLITRK1遺伝子の変異が精神神経疾患のリスクとしてどの程度重要なのかについては、より検出力の強い、精度の高い統計解析を行った後でないと最終的な結論はできません。

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