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研究内容

私たちは脳神経系の恒常性を維持する機構の成り立ちと、その異常がもたらす疾患の病態・治療について研究を進めています。

1. 神経血管ユニットの発生と機能

 ヒトの脳は体重のわずか2%程度の重さですが、心臓を流れ出る血流のうち、15%ほどが脳を循環しており、脳は絶えず酸素や栄養物質、ホルモンをはじめとする体内の状況を知らせる物質などを血液から受け取り、活動しています。脳の血管には有害な物質に脳が曝されないようにする障壁(バリア)が特に発達しており、この機能は血液脳関門と呼ばれています。血液脳関門は薬物の脳への移行の程度に大きな影響を与えることが知られており、中枢神経系を標的とした薬物の開発に重要な意味を持ちます。また、加齢や環境の変化による血管の老化や代謝の障害が血液脳関門の機能を損なうことが知られています。

 近年の研究により、血液脳関門は血管内皮細胞、血管周皮細胞、アストログリア細胞、神経細胞などによって構成される血管とそれを取り巻く構造(神経血管ユニット)によって、形成されることがわかってきました(下図)。また、神経血管ユニットには脳を守るだけでなく、脳の活動に応じた局所血流を調節する機能や、虚血後の組織修復において重要な役割を果たす幹細胞を維持する機能などが想定されています。

 私たちは哺乳動物の神経血管ユニットの発生と機能調節に関わる分子機構を転写因子とシグナリングの両側面から追究しています。独自に開発した遺伝子変異動物や分子ツールの他に、丹羽正美先生(先代教授)が深めてきた血液脳関門のin vitro解析技術を駆使しながら、研究を進めています。

2. シナプス膜タンパク質の分子機能と生理的役割

 脳を構成する多くの神経細胞はシナプスと呼ばれる構造を作って、細胞の間で情報を伝達しています。シナプスでの情報伝達は「前シナプス」にある神経伝達物質の入った小胞から、神経細胞の興奮にともない内容物が細胞外へ放出されることでおこなわれ、情報を受け取る「後シナプス」では、神経伝達物質と結合したレセプターがその情報を細胞内へ伝えるための情報変換をおこないます。前シナプスと後シナプスの細胞膜の一部はわずかな隙間を持って接しており、そこには多くの膜を貫通するタンパク質(シナプス膜タンパク質)が存在しています(下図)。

哺乳類の脳にあるシナプスは形態的にも機能的にも多様なものですが、この多様性が産み出される理由の一つが、シナプス膜分子の多様性であることが近年分かってきました。数多くのシナプス膜分子が知られていますが、私たちは分子構造や発現パターンなどから、脳の機能を説明するために重要と思われるいくつかのシナプス膜分子に注目して、その生理的役割の解明にむけて遺伝子変異動物を利用して研究を進めています。

3. 発達障害モデル動物の解析

 ゲノム解析やヒト遺伝学の進展に伴い、様々な疾患の原因遺伝子が明らかにされてきました。その過程で、私たちの研究対象とした遺伝子のいくつかが、発生・発達障害の発症に関与することが示されました(全前脳症、小脳形成不全、内臓不定位症、統合失調症、近視難聴合併症)。また、トゥレット症候群、自閉症、てんかん、多動症なども関連が示唆されています。これらの遺伝子を欠くマウスは、多くの場合、関連した行動の症状や脳の組織学的・生理学的な変化示し、疾患モデル動物となり得ることが分かりました。  これらの遺伝子変異マウスを用いた解析が、疾患の中核となる機構を明らかにするとともに、候補治療薬の薬効の評価にも貢献するであろうと期待しています。

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