慶應大・東北大・長崎大の研究グループが、厚生労働省科研費の成果として「情報通信機器を用いた精神療法の手引書(1.0版)」を策定
慶應義塾大学医学部の岸本泰士郎教授(医科学研究連携推進センター)、木下翔太郎特任助教(医科学研究連携推進センター)、東北大学の富田博秋教授(大学院医学系研究科)、長崎大学の熊﨑博一教授(大学院医歯薬学総合研究科)らの研究グループは、オンライン環境における精神療法の適切な実施を支援することを目的として、「情報通信機器を用いた精神療法の手引書(1.0版)」を完成させ、5月27日にWebサイト上で公開いたしました。近年、情報通信技術の発展や医療ニーズの多様化に伴い、精神科領域においてもオンライン診療(注1)の需要が急速に高まっており、特に外出が困難な患者さんへの医療提供や治療継続の観点から、その重要性は増しています。一方で、対面診療とは異なる環境下での実施には、安全管理や臨床スキルにおける新たな知見と指針が不可欠であることから、本手引書は2025年12月に策定された「情報通信機器を用いた精神療法の適切な実施に関する指針」に基づき、厚生労働省科学研究費助成事業の支援を受けて専門的な視点から体系化されました。
主にこれからオンライン精神療法を導入・実施する精神科医を対象としていますが、この標準化された実践ガイドが普及することで、近隣に専門施設がない、症状により外出が困難である、あるいは対面受診に強い心理的抵抗があるといったさまざまな課題を抱える患者さんの医療アクセスが改善されることが期待されます。
本研究グループは、本手引書の提供を通じて、デジタル時代における安全かつ質の高い精神科医療の新たなスタンダードを確立し、全国どこにいても患者さんが安心して治療を継続できる環境の整備に尽力してまいります。
1.手引書作成の背景
近年、情報通信技術の進展や医療ニーズの多様化に伴い、オンライン診療の需要が高まっています。特に精神科領域では、外出困難な患者への対応や通院負担の軽減などの観点から、オンライン診療の活用が期待されています。こうした中、2025年12月に「情報通信機器を用いた精神療法の適切な実施に関する指針」が示され、オンライン精神療法の適切な実施に向けた基本的枠組みが整備されました。一方で、実臨床においては、具体的な運用方法や留意点についての知見の共有が十分でなく、導入に踏み切れない精神科医も多かったところです。本手引書は、これらのニーズを踏まえ、現場の精神科医がオンライン精神療法を安全かつ適切に実施できるよう支援することを目的として作成されたものです。
2.手引書の概要
本手引書は、オンライン精神療法を実施する精神科医を主な対象とし、関連する指針に準拠した具体的な実務の手引きを示しています。構成は以下のとおりです。・第1章:手引書の位置づけ
・第2章:オンライン診療の基本(導入準備、運用上の留意点等)
・第3章:オンライン精神療法の実践(臨床上の留意点、エビデンス等)
・第4章:よくある質問
オンライン診療の基本要件を踏まえつつ、精神科領域に特有の課題である症状悪化や自傷リスクへの対応、対面診療との適切な併用、薬物療法における慎重な判断などについても整理しています。 また、既存の研究に基づき、オンライン精神療法が対面診療と同等の有効性を持ち得ることや、患者の通院負担軽減、治療継続の支援といった利点についても紹介しています。
手引書はWebサイト上で公開しています。
(https://mhiis.pirms.med.keio.ac.jp/telemedicine-research/)
3.成果と意義・今後の課題
本手引書の公開により、オンライン精神療法の導入・運用に関する実務的な指針が明確化され、精神科医療における適切なオンライン診療の普及が促進されることが期待されます。これにより、通院が困難な患者や、時間的・地理的制約を抱える患者に対する医療アクセスの向上、治療継続率の改善、さらには精神科受診に対する心理的ハードルの低減といった効果が見込まれます。一方で、オンライン診療は対面診療に比べて得られる情報が限定されることから、両者を適切に組み合わせた診療体制の構築が重要です。本手引書はその実践を支える基盤として位置づけられます。とりわけ、本年6月以降に予定されている診療報酬の算定要件緩和の動向を踏まえ、オンライン精神療法の適用は拡張されていくことが見込まれます。これに伴い、本手引き書が活用される場面はますます増えることが予想されると同時に、オンライン診療活用に伴う新たな課題が生じるかもしれません。
今後、医療法の改正や診療報酬改定、臨床現場でのオンライン診療の活用実態の展開を踏まえ、本手引書についても継続的な見直し・改訂を行うとともに、現場への普及と実装支援を進めていく予定です。これにより、より質の高いオンライン精神療法を、より多くの患者さんに提供できるようになることが期待されます。
4.特記事項
本研究は令和6年度厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)の支援によって行われました。【用語解説】 (注1)オンライン診療:遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察および診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムで行う行為。
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【本発表資料のお問い合わせ先】
慶應義塾大学医学部 医科学研究連携推進センター教授 岸本 泰士郎(きしもと たいしろう)
TEL:03-5363-3219
E-mail:tkishimoto@keio.jp
https://mhiis.pirms.med.keio.ac.jp/
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