心原性ショックに対する補助循環装置 IMPELLA(インペラ)とは

心原性ショックに対する補助循環装置 IMPELLA(インペラ)とは
長崎大学病院は長崎県唯一のインペラ導入施設です。※2023年6月現在
心原性ショックと補助循環装置
 急性心筋梗塞、心筋炎、重症心不全などにより心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を循環できなくなった状態を心原性ショックと呼びます。心原性ショックは医療が発展した現代においても致死率が高く、院内死亡率は30~50%とも報告されています1)。心原性ショックに対しては、まずは強心薬などの薬物療法が行われますが、効果が乏しい場合やすでに致命的な重症度に達している場合には、補助循環装置が必要となります。
 従来の補助循環装置として、大動脈内バルーンパンピング (IABP)や経皮的心肺補助装置 (ECMO)があります。しかしIABPは心拍出量を10~20%程度しか増やすことができないといわれており、補助流量が不十分なケースがしばしばあります。ECMOは適切な導入と管理を行えば非常に高い補助流量を得ることができますが、大腿動脈からの逆行送血であるため、流量が高ければ高いほど心臓にとっての負荷が増えてしまい、その後の心臓の回復の障害となってしまうことがありました。

(IABP 文献2より引用) (ECMO 文献3より引用)
(IABP 文献2より引用) (ECMO 文献3より引用)
IMPELLA(インペラ)とは
(インペラ アビオメッド社 HPより引用)

(インペラ アビオメッド社 HPより引用)
(インペラ アビオメッド社 HPより引用)


 IMPELLA(インペラ)とは、心原性ショックに陥った際、一時的に心臓の代わりとなって全身に血液を送る補助循環用ポンプカテーテルです。IMPELLAはカテーテルの形状をしており、血管を通じて挿入され左心室の中に留置されます。IMPELLAの羽根車が回転することで直接左心室内から大動脈へ向けて血流を汲み出します。左心室内を減圧(アンロード)することで心臓の負担を軽減しながら、高い補助流量を得ることができるという点で画期的な補助循環装置です。
 現在、国内では経皮的に挿入が可能な「IMPELLA CP」、外科的な挿入が必要な「IMPELLA 5.0(5.5)」が使用されています。
 IMPELLAは、関連学会及び厚生労働省により認可を受けた施設のみで実施可能な治療法です。当院では、2020年3月に長崎県内で初めてIMPELLAを導入し、以後心原性ショックの適応症例に対してIMPELLAを使用してきました。当院におけるIMPELLAの使用症例は年々増加しています。

当院におけるIMPELLA使用件数
IMPELLAの適応
当院におけるIMPELLA疾患内訳
(2020年3月~2022年12月)

 IMPELLAは心原性ショックを伴う急性冠症候群(急性心筋梗塞)や劇症型心筋炎がもっとも良い適応です。左冠動脈主幹部閉塞の心筋梗塞や、院外で心肺停止に陥ってしまった症例など、今まで救命が困難であったようなケースにおいてもIMPELLAが力を発揮してくれています。特に劇症型心筋炎の症例においては、IMPELLAとECMOを併用するECPELLAという治療法によって、かなりの救命率の向上を実感しています。
 その他にも心臓移植登録が必要な重症心不全に対しての橋渡し治療や、弁膜症や心室中隔穿孔の症例で心臓手術までの待機目的での使用も行っています。
IMPELLAの禁忌・不適応
 大動脈弁置換術後(機械弁)、中等度以上の大動脈弁逆流症、左室内血栓が禁忌となります。右心不全が主体の心原性ショック(肺塞栓など)には効果が乏しいです。
 またIMPELLAはあくまで「一時的な」補助循環装置であり、IMPELLAで時間を稼ぎながら根本的な心臓治療を行い、心臓が回復してIMPELLAを離脱することが治療の大原則です。根本的な治療法がないようなケースの場合には、補助循環装置自体が不適応となる場合もあります。
ECPELLA(エクペラ)とは
 ECPELLA(エクペラ)とは、ECMOとIMPELLAを併用した治療法です。ECMOで高い補助流量を得ながら、IMPELLAで心臓の負荷を軽減させるという点で、大変理にかなっています。半面、管理には高い知識と技術が要求され、治療にかかる労力も多大です。挿入されるデバイスも多くなってしまうため、感染や出血のリスクも高くなります。当院ではIMPELLA使用症例の半数以上がECPELLAです。

ECPELLA
チーム医療の重要性
 IMPELLAの治療・管理は一人の医師のみでできる治療ではありません。循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医といった医師に加え、臨床工学技士、病棟看護師など、心不全や心原性ショックに関する知識と技術そして経験を持った心不全治療の専門チームにより行われる治療法です。

IMPELLAのハンズオントレーニング

院内で定期的にIMPELLAのハンズオントレーニングを行っています。
さいごに
 繰り返しになりますが、心原性ショックは現代においても致死率が高く、非常に厳しい病態と言わざるを得ません。しかしそんな中でも、私達長崎大学病院ハートチームはIMPELLAをはじめとする補助循環装置を使いこなすことで、少しでも多くの患者さんの救命につながるよう尽力していきたいと考えております。
引用文献
1) DM Ouweneel et al. J Am Coll Cardiol. 2017 Jan 24;69(3):278-287.
2) ASK Wong et al. Ann Transl Med. 2020 Jul;8(13):829.
3) B Illum et al. Curr Treat Options Neurol. 2021;23(5):15.