閉塞性動脈硬化症に対するカテーテル治療

閉塞性動脈硬化症に対する カテーテル治療
閉塞性動脈硬化症、末梢動脈疾患とは?
 皆さんはメタボリックドミノという概念をご存知でしょうか?生活習慣の乱れによる肥満を背景に高血圧、糖尿病、脂質異常症を生じ、次第に全身の動脈硬化が進行し最終的には心筋梗塞・脳卒中などの致死的な疾患を来してしまうというドミノ倒しのような負の連鎖のことを表現します。閉塞性動脈硬化症もこのドミノ連鎖の結果生じる疾患で、主に下肢の血管が動脈硬化により狭くなることで下肢に十分な血流が供給されず、歩行時の疼痛や下肢潰瘍を来す病気です。
 動脈硬化は全身の血管に生じるため、下肢動脈だけでなく、頸動脈・大動脈・鎖骨下動脈・ 腎動脈など全身の末梢動脈の狭窄・閉塞を表す病態のことを末梢動脈疾患と表現します。
 重要なことは末梢動脈疾患の患者さんは心血管疾患を約30%や脳血管疾患を約20%合併することが知られており、これらの疾患に対するマネージメントも同時に必要と考えられます。
閉塞性動脈硬化症の症状とは?
間欠性跛行・・・しばらく歩くと下肢が重くなり痛くなり歩けなくなる。休むとまた歩けるようになるといった症状が典型例です。脊柱管狭窄症の症状と似ている為、整形外科を受診される方もいらっしゃいますが、ABIという両上肢と両下肢の血圧を同時に測定する検査で鑑別が可能です。
下肢潰瘍、安静時疼痛・・・閉塞性動脈硬化症の患者さんは下肢の血流が不足しているためケガや靴ずれ等がきっかけで下肢の皮膚に潰瘍形成に至ることがあります。また、高度の血流不足により潰瘍がなくとも慢性疼痛を生じることがあります。このような状態を包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)と呼び、下肢切断が必要な場合や心血管疾患の合併により予後も悪いことが知られています。
閉塞性動脈硬化症の治療法は?
内科的治療
動脈硬化を進行させないために、血圧管理・脂質管理・糖尿病管理を厳重に行います。また、心血管疾患の合併がないか動脈硬化疾患のスクリーニングを行います。
間欠性跛行に対する治療
まずは運動療法、薬物療法で治療を行います。症状の改善が得られれば定期検査を行いながら経過を見ていきます。しかし、症状の改善がなく生活に支障があるようであれば血行再建治療(カテーテル治療、バイパス手術)を行います。
下肢潰瘍(包括的高度慢性下肢虚血:CLTI)に対する治療
保存的治療で潰瘍の治癒が得られない場合、その原因が下肢の血行不良によるものであれば血行再建治療(カテーテル治療、バイパス手術)を検討します。潰瘍部分に細菌感染を来した場合、時に全身に感染が広がり生命を脅かす状態になることもあり、そのような場合はより高度な全身管理が必要となります。当院では大学病院のメリットを生かして形成外科、皮膚科、心臓血管外科、感染症内科等の診療科やリハビリスタッフ等の多職種と連携して患者さんの病状改善のための適切なチーム医療を行っています。
当科の治療実績
長崎大学病院 循環器内科では2020年に計40例のカテーテル治療を行いましたが、約半数は下肢潰瘍を有する高度慢性下肢虚血(CLTI)の症例でした。
カテーテル治療実績(2020年)
カテーテル治療の例
間欠性跛行に対して腸骨動脈にステント治療を行った症例
左腸骨動脈の閉塞 バルーン拡張 ステント留置
左腸骨動脈の閉塞 バルーン拡張 ステント留置
ステント留置により左下肢の血流が増加し、間欠性跛行の症状が改善しました。

下肢潰瘍に対して膝下の血管にバルーン治療を行った症例
治療前 バルーン拡張後
治療前 バルーン拡張後

バルーン拡張により、足底部の血流が増加し潰瘍の治癒が得られました。
当科窓口
赤司良平、本田智大