TAVIとは
重症大動脈弁狭窄症に対する手術療法は、これまでは外科的に開胸して、大動脈弁置換術を行っていました。近年、カテーテルを用いて人工弁を留置する手術方法が登場しました。これを、TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術:Transcatheter Aortic Valve Implantation)といいます。
大動脈弁狭窄症
大動脈弁は三つの半月状の弁が組み合わさって、大きく開き、しっかり閉じる構造になっています。正常の大動脈弁は10円硬貨ぐらいの大きさです。
幼児期のリウマチ熱による変性や、加齢に伴う動脈硬化、先天的に弁が二つにしか別れていない先天性二尖弁などが原因で、この大動脈弁が狭くなってしまう病気が大動脈弁狭窄症です。弁尖は硬く、一部はガチガチの石灰化をおこしてしまいます。
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正常な大動脈弁 |
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動脈硬化による大動脈弁狭窄症 |
大動脈弁狭窄症の予後
下の図に示すように、胸痛、息切れ、失神などの大動脈弁狭窄症に伴う自覚症状が出現してから、数年のうちに病状が進行し、場合によっては死に至ることがあります。
重症大動脈弁狭窄症の診断基準
一般的には超音波(心エコー)検査で、最高血流速度≧4.0m/s以上、平均圧較差≧40mmHg以上、大動脈弁弁口面積≦1.0cm2以下を重症の大動脈弁狭窄症と診断されますが、左室収縮力が低下している症例などでは重症でも上記所見を満たさないことがあるため、専門医による詳細な評価が必要です。
大動脈弁狭窄症の治療方法
① 内服薬での保存的治療 ② 手術療法の2つがあります。
軽症の場合は、内服治療での症状緩和が行われます。重症になると薬での治療の効果は限定的となり、根本的治療として手術が必要となります。
これまでは外科的に開胸下で行う、大動脈弁置換術が唯一の手術方法で治療成績も確立しています。これに加えて、近年TAVIも選択肢の一つとなりました。
TAVIの手術方法
大腿部の血管からカテーテルを挿入し、既存の大動脈弁の内側から人工弁を留置します(経大腿アプローチ)。
大腿部や胸腹部の血管が細かったり曲がっていたりして、カテーテル挿入に適さない場合は、心臓の先端(心尖部)から弁を挿入する方法で行います(経心尖アプローチ)。
≪経大腿アプローチ≫ |
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≪経心尖アプローチ≫ |
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患者さんにとってのメリット
TAVIの場合、高齢や外科的手術に対するリスクが高いために手術ができない患者さんに対しても、治療ができる可能性があります。
また、開胸するよりも身体的負担が少ないため、術後の回復が早く入院期間が短くなることが期待できます。
対象となる疾患
一般的には、重症の大動脈弁狭窄症で、外科的手術が困難な患者さんです。
治療方法の選択に関して
下の図に示すように、外科的大動脈弁置換術とTAVIそれぞれに良い適応、悪い適応があります。
TAVIの良い適応は、外科的手術のリスクが高い症例、すなわち高齢(概ね80歳以上)、虚弱である方、開胸手術の既往のある方、肺気腫や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患をお持ちの方、肝硬変などの肝疾患をお持ちの方などです。
逆に、TAVIの適応とならない方は、悪性腫瘍など非心臓疾患を有するため予後が1年以内と見込まれる方や、血液透析を行っている方などです。
検査入院で全身評価を行った後、長崎大学病院TAVIチームで協議し、患者さんに最適な治療方法を決定致します。
治療までの流れ
治療成績
長崎大学病院では、2015年11月に医師(循環器内科、心臓血管外科、麻酔科)、看護師、放射線技師、生理検査技師、臨床工学技士、理学療法士等、多職種で構成されるTAVIチームを立ち上げ、治療開始に向けて取り組んできました。
2016年7月にTAVI第1例目の治療を行いました。2023年3月時点で、経大腿動脈アプローチ254例、経心尖アプローチ2例、経鎖骨下動脈アプローチ6例、直接大動脈アプローチ1例の、計263例の治療を行いました。
最後に
大動脈弁狭窄症は、聴診での心雑音でその存在を疑い、超音波(心エコー)検査で確定診断を行います。近年では、加齢に伴う動脈硬化の進行を原因とする大動脈弁狭窄症が主体であり、息切れ・失神・胸痛などの背景に大動脈弁狭窄症が関与している場合があります。
治療として、高齢や虚弱のため、これまでは手術が受けられなかった方にTAVI治療が適応となる場合もあります。かかりつけの先生に診察していただき、精密検査が必要であれば当院にご相談ください。
関連リンク
エドワーズライフサイエンス株式会社TAVIホームページ
http://tavi-web.com/
当科担当・窓口
当科TAVIメンバー
米倉 剛、
赤司 良平、本川 哲史、本田 智大、黒部 昌也
当科窓口
米倉 剛、
赤司 良平