僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療 MitraClip(マイトラクリップ)とは

僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療 MitraClip(マイトラクリップ)とは
当院は2024年5月よりマイトラクリップ実施施設となりました。
僧帽弁閉鎖不全症とは
 心臓は4つの部屋(左心房・左心室・右心房・右心室)から成り立っており、全身の血液が静脈を介して右心房に戻り、右心室から肺を循環して左心房へ流れ込み、左心室から大動脈を介して全身へ送り出されます(図1)。左心房と左心室の間には血液が逆流しないように2枚の膜で構成された僧帽弁という一方向弁がついています(図2)。
 僧帽弁閉鎖不全症とは、様々な原因により僧帽弁が十分に閉じることができないために左心室から左心房へと血液が一部逆流してしまう状態で、これにより全身の血液循環の効率が損なわれてしまいます。原因として、弁の構造自体が壊れてしまっているもの(器質性、図3)と、左心房や左心室が何らかの原因で障害を受けて拡大してしまった結果、弁が引っ張られるかたちで閉まりが悪くなったもの(機能性、図4)の二種類があります。
 重症の僧帽弁閉鎖不全になると息切れやむくみなどの心不全症状が出現し、命に関わることがあります。また、逆流が左心房に負担をかけることによって心房細動などの不整脈を引き起こすこともあります。

僧帽弁閉鎖不全症とは【図1】
【図1】

僧帽弁閉鎖不全症とは【図2】 僧帽弁閉鎖不全症とは【図3】 僧帽弁閉鎖不全症とは【図4】
【図2】 【図3】 【図4】
MitraClip(マイトラクリップ)とは
 僧帽弁閉鎖不全症の治療としては、これまでは薬物治療や開胸手術が主でした。薬物治療では、心不全の症状を軽減させることはできますが、逆流を来たしている弁自体を直接治療できるわけではありません。根治のためには外科手術が必要ですが、高齢者や他に持病がある場合など、手術のリスクが高ければ実施が難しいことがあります。薬物療法のみで経過観察した場合、徐々に心不全が悪化してしまうリスクが高くなります。
 MitraClip:マイトラクリップ(アボット・バスキュラー・ジャパン株式会社)とは、僧帽弁閉鎖不全症に対する血管内カテーテルをもちいた治療法です(図5)。マイトラクリップでは、閉鎖が不十分になっている僧帽弁を小さなクリップで挟み込むことで逆流を制御します。開胸や人工心肺を必要としないので体への負担が少ないのが大きな特長です。
 本治療に要する時間は麻酔処置も含めて約3~5時間前後で、術後入院期間は7日程度です。マイトラクリップ治療がうまくいけば、薬物療法単独で治療した場合よりも心不全症状の改善や、心不全入院や予後の抑制効果が報告されています(COAPT試験)。

【図5】実際のクリップ 体外からクリップを操作するための機器
【図5】実際のクリップ 体外からクリップを操作するための機器
マイトラクリップの治療方法の実際
【1】 治療は全身麻酔で行います。鼠径部の静脈からシース(血管内への道筋を作るための筒)を挿入します。心房中隔穿刺針を通して心房中隔に穴を開け、右心房から左心房に別のクリップ専用シースを挿入します。
【2】 シースから、先端にクリップが付いたデリバリーシステムを左心房に挿入します。
【3】 クリップを僧帽弁逆流の部位までへ操作し、僧帽弁をクリップで挟み込みます。
【4】 僧帽弁逆流が減少し、僧帽弁の弁口に狭窄が生じていないことを確認した後にクリップを留置します。逆流が残っている場合などは、クリップを挟みなおしたり、追加のクリップを留置したりすることもあります。
【5】 クリップの留置後、僧帽弁解放時にはクリップを隔てて二つの穴から血液が流入することになります。
【6】 僧帽弁閉鎖時にはクリップによって僧帽弁がしっかりと接合し、逆流が改善します。最後にカテーテルを引き抜き、止血処置や縫合を行い、終了となります。

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画像提供:アボット・バスキュラ・ジャパン株式会社

当科での実際の治療画像
当科での実際の治療画像  ※患者さんの許可を得て掲載しています。
マイトラクリップのメリット
  1. 身体への負担が少ない
  2. 外科手術困難、またはリスクが高い方へも実施可能
  3. 早期の社会復帰が可能
 高齢であったり、心機能が悪いため手術をあきらめていたような患者さんにも、治療ができる可能性があります。また開胸をしないので身体的負担が少なく、術後の回復が早いため入院期間が短いことも特長です。
マイトラクリップの適応
 心不全症状がある重症の僧帽弁閉鎖不全症で、さまざまな理由で外科手術が困難あるいは高リスクな患者さんがマイトラクリップの対象となります。

 また中等度以上の僧帽弁閉鎖不全症心不全を繰り返すような患者さんのなかに、マイトラクリップが有効な患者さんが隠れていることもわかっています。運動負荷心エコー検査等を行って適応を判断します。

 最終的に循環器内科、心臓血管外科、麻酔科医など多職種からなるハートチームで議論し、適応を検討する必要があります。

!注! 患者さんのご希望のみ(開胸手術が嫌である 等)で本治療を受けることは残念ながらできません。
マイトラクリップの不適応
・左心室駆出率が20%以下
・本邦ガイドラインに準じた薬物療法が充分に行われていない機能性の僧帽弁閉鎖不全症
・急性増悪の状態、あるいは強心薬に依存している状態
・補助循環を使用している患者さん
・経食道心エコーが実施できない患者さん
・僧帽弁の形態的にマイトラクリップに不向きである場合
・そのほかの理由で生命予後が不良である患者さん
術前検査と治療までの流れ
術前検査と治療までの流れ
さいごに
 高齢や心機能が悪い等の理由で、これまでは手術ができなかった患者さんにも治療を行うことができるようになりました。長崎大学病院ハートチームとして、そのような患者さんのお力になれれば幸いです。まずはかかりつけの先生に診察していただき、当科外来までご相談ください。
当科担当・窓口
チームメンバー:
本田 智大、吉牟田 剛、上野 裕貴、福嶋 理知、江口 智早、佐藤 大輔南 貴子

外来窓口:
本田 智大(水曜午後)、吉牟田 剛(火曜午前)

当院でのMitraClip治療中の様子
当院でのMitraClip治療中の様子

当科マイトラクリップメンバー
当科マイトラクリップメンバー ピースはマイトラクリップのサインです