胆道閉鎖症および胆汁うっ滞性肝疾患早期発見の試み

小児外科が診療する重要疾患のひとつに、胆道閉鎖症という病気があります。

日本小児外科学会の説明New Window
日本胆道閉鎖症研究会ホームページNew Window

 肝臓で作られた胆汁は、胆汁専用の道(胆道)を通って腸内に排泄され、栄養を吸収する役目を持っています。この通路が何らかの原因で閉鎖した病態を胆道閉鎖症と言います。胆汁が腸内へ排泄されないと栄養をうまく吸収できず、重症の場合は脳出血をきたすこともあります。最終的には肝硬変になってしまいます。
 胆道閉鎖症に対する唯一の治療は、東北大学の葛西先生が確立された肝門部空腸吻合術(葛西手術)です。胆道閉鎖症は、治療が早ければ早いほど(できれば生後60日以内)予後が良いと報告されていますが、手術後も服薬治療が必要です。また合併症に対する検査や治療も必要です。そのため、厚生労働省が定める「小児慢性特定疾患」のひとつに指定されています。
小児慢性特定疾患の説明New Window

 手術後も病状が進行することがあり、重篤な場合には肝移植の適応を考えなければいけません。

 現在みなさんの母子手帳には便色カードが掲載されていると思います。そもそも便に色がついているのは、胆汁が腸内に排泄されているからです。しかし、胆道閉鎖症では胆汁の排泄がありませんので、白い便(灰白色便)を呈します。便色カードによる便色チェックは、胆道閉鎖症の早期発見のひとつの手段となっています。

 一方、長崎大学病院小児外科では、長崎県産婦人科医会と協力してUSBA(尿中硫酸抱合型胆汁酸)の測定を行っています。本来腸内に排泄されるべき胆汁が体内にうっ滞すると、尿中に胆汁の一部が多く排泄されてしまいます。それがUSBAです。
 USBAは、赤ちゃんの尿から簡単に採取・測定することができ、数字による客観的評価が可能です。USBAが異常値を示した場合、長崎大学病院小児外科の外来で簡単な検査を行い、胆道閉鎖症かそうでないかの評価を行います。万が一胆道閉鎖症が疑われる場合は、さらなる精査のために入院をしていだたく可能性があります。
 当科では2006年から2008年までに、胆道閉鎖症1例、アラジール症候群1例、ウイルス性肝炎1例を発見することができました。
 この取り組みにより、今後胆道閉鎖症に対するスクリーニングが確立され、一人でも多くの胆道閉鎖症の児が予後をより良く過ごせられるようになれば幸いだと考えています。

 最後に一言お伝えします。
 このUSBAの検査を受けていれば必ず胆道閉鎖症がわかるというわけではありません。「USBAが正常だから絶対に胆道閉鎖症ではない」というわけではなく、逆に「USBAが異常だから必ず胆道閉鎖症になる」というわけでもありません。
現時点では、便色カードのみが公的に認められている胆道閉鎖症の診断補助となっています。
便色が気になる方は、出産された産婦人科や小児科に相談されることをお勧めします。

※USBA検査は、長崎県内のすべての産婦人科で施行しているものではありません。


【参考資料】
 ・尿中硫酸抱合型胆汁酸(USBA)測定で胆道閉鎖症早期発見はできるのか?
  -長崎県佐世保・北松地区における早期発見モデルの紹介-.大畠雅之,医療情報誌シュネラー64:20-24,2007
 ・尿中硫酸抱合型胆汁酸測定による胆道閉鎖症早期発見への取り組み.大畠雅之,小児外科40(1):56-60,2008