診療内容(診療グループ):乳腺・内分泌外科
乳腺・内分泌外科班の診療と研究内容
 乳腺疾患(乳癌、乳腺良性腫瘍)と甲状腺疾患(甲状腺癌、甲状腺良性腫瘍、バセドウ病)、副甲状腺疾患(良性腫瘍、癌)を主に担当しています。また、定期的に他科(放射線科、病理部、内分泌内科など)とのカンファレンスを開き、診断や治療方針を決定し専門性の高い診療を提供しています。定期的にカンファレンスを行う科だけでなく、若年の方、今後妊娠を希望されるご年齢の患者様であれば産婦人科とも連携して治療方針を検討しております。また、手術の際に再建術など必要となる際には形成外科とも連携してすすめてまいります。あらゆる副作用の可能性がある薬剤を使用するときには、専門の科に相談して治療をすすめていきます。

 また、大学病院内では各種研究を行っており、外部での臨床研究にも参加しております。患者様の治療に大きな影響が及ばない範囲で研究へのご協力をお願いしております。何卒ご理解いただけますと幸いです。
対象疾患
① 乳腺疾患
 乳癌は女性の癌ではもっとも罹患率が高く、一生のうち約9人に1人は乳癌にかかるといわれております。早期発見および適切な治療により治癒することも期待できます。

【 診 断 】
 マンモグラフィー、超音波、造影乳房MRIなどの画像検査にて悪性病変が疑われる場合には、外来で針細胞診、針生検(組織診)を行い、細胞や組織を採取して確定診断をいたします。
乳癌のマンモグラフィ像
乳癌のエコー像
乳癌のマンモグラフィ像 乳癌のエコー像

【 手 術 】
 クリニカルパスを使用することにより治療の一律化と早期退院を可能にします。

乳房部分切除術
 手術前に十分な画像検査を行います。また、手術中に摘出した組織をマンモグラフィーで撮影し癌組織を摘出できたことを確認しています。摘出した組織を顕微鏡の検査でくまなく確認し、わずかな残存の可能性もないようにしています。術後は局所再発率を低下させるために温存した乳房に放射線を照射することを原則としております。放射線照射は通院で行うことができ、4-5週間の通院が必要となります。

乳房全切除術
 腫瘤が大きい場合や広範囲に広がった乳癌には乳房全切除術を行っております。詳しい画像検査を行い、適切な手術方法を提案しております。

乳房再建術
 比較的早期の乳癌症例に対し、患者様や当院形成外科チームと十分に相談を行ったうえで、乳房全切除術後に乳房再建術を同時に行う症例が徐々に増加してきております。再建方法には、ご自身の腹部や背部の組織を移植する方法(自家組織移植法:広背筋皮弁法、腹直筋皮弁法など)と、インプラントを挿入する方法(エキスパンダー・インプラント法)があります。再建のご希望がある場合、詳しい話を聞いてから検討されたい場合は、当科外来受診時お早めにご相談ください。形成外科と連携して診療を行ってまいります。

こちらの動画もご参照ください。

一般社団法人 日本乳癌学会ー患者んさん説明用動画→「乳房の手術」

センチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清術
 画像検査や腋窩リンパ節の細胞診でリンパ節転移がみられない場合に行います。センチネルリンパ節とはがんが転移する可能性の高いリンパ節のことです。組織学的に、センチネルリンパ節に転移を認めない症例では腋窩リンパ節郭清を省略することが推奨されております。当科ではラジオアイソトープ法と色素法を組み合わせてより正確にリンパ節を探し出します。これは乳癌の手術と同時に行います。手術中にセンチネルリンパ節に転移があるかないか、迅速病理診断で判定いただいております。転移を認めれば、その転移の大きさにより腋窩リンパ節郭清術を施行します。乳がん手術の際に定められた範囲のリンパ節を含めた脂肪組織を摘出します。

「乳がん診療ガイドラインの解説」より
色素に染色されたリンパ管とリンパ節 色素に染色されたリンパ管とリンパ節
色素に染色されたリンパ管とリンパ節

こちらの動画もご参照ください。

一般社団法人 日本乳癌学会ー患者んさん説明用動画→「センチネルリンパ節生検」
一般社団法人 日本乳癌学会ー患者んさん説明用動画→「腋窩リンパ節郭清」

クリニカルパスを使用することにより治療の一律化と早期退院を可能にします。

【 薬物療法 】
 乳癌は手術のみでなく、化学療法やホルモン療法などの薬物療法も非常に重要です。当科では病理標本よりホルモンレセプターおよびHer2/neu 、Ki67 (増殖因子)などの詳細な検討を行います。症例によっては手術時に摘出した癌の組織を用いて術後の再発リスクを予測し、抗癌剤治療の必要性を判断するための遺伝子検査を提案する場合があります。また、手術前に化学療法を行うことで、癌を小さくすることができる場合もあります。癌のタイプにより、高い効果が期待できる治療方法を選択します。副作用への対応が難しい薬剤は、使用できる病院が限られていることもあります。大学病院は多くの分野の専門医が在籍していますので、副作用への対応も慎重に行うことで治療選択肢を増やすことに努めております。

 術後は慎重に経過観察を行いますが、再発が判明した場合は状況に応じて最適な治療方針を検討し、提案いたします。

 下記もぜひご参照ください。

  • 患者さんのための乳がん診療ガイドライン
  • 日本乳癌学会より動画のQRコードも公開しております。


  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)
     乳癌患者さんの約4%の方が、BRCA1もしくはBRCA2という遺伝子に変化をもっているといわれています。これらの遺伝子の変化がみられた場合、複数回乳癌を発症したり、卵巣癌を発症するリスクが高いといわれています。外来初診時に家族歴などをお伺いすることで、必要な方には検査についてご紹介しています。県内で遺伝カウンセリングや遺伝学的検査を受けることができる数少ない施設の一つです。実際にHBOCと判明した方々には、ご家族を含めた適切な検診など、今後の健康管理についても対応いたします。長崎大学病院 ゲノム診療センター 遺伝カウンセリング部門のホームページもご参照ください。
     参考:JOHBOC(日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構)  遺伝性乳がん卵巣がんをご理解いただくために(パンフレット) 

    ② 甲状腺・副甲状腺疾患
     甲状腺や副甲状腺疾患に対して、内分泌外科専門医のもとチームで外科治療を行っています。

    主な対象疾患は以下になります。
  • 良性疾患・・・バセドウ病, 甲状腺良性腫瘍(結節), 副甲状腺良性腫瘍(原発性副甲状腺機能亢進症を含む)
  • 悪性疾患・・・甲状腺癌, 副甲状腺癌

  •  特に甲状腺癌については、当院内分泌内科と連携して放射線ヨウ素内用療法や分子標的薬を用いた薬物治療も含め、集学的治療を行っています。手術の際には神経モニタリングを用いて、大事な声の神経(反回神経・上喉頭神経外枝)を温存する手術を心がけております。

    上;右葉切除 下:全摘
    甲状腺亜全摘後
    上;右葉切除 下:全摘 甲状腺亜全摘後
    研究内容
     基礎医学教室などの協力により、乳癌の遺伝子に関する研究も行っております。また、九州・全国の臨床試験にも積極的に参加しており協力していただける患者さんにはご協力をお願いしております。
    ● マイクロアレイによる乳癌発症原因遺伝子解析
    ● センチネルリンパ節生検の新規迅速診断の開発
    ● 3Dモデルの甲状腺腫瘍診断への活用
    ● 甲状腺癌に対するセンチネルリンパ節生検の確立
    ● p53-binding protein 1(53BP1)蛍光免疫染色を利用した甲状腺濾胞性腫瘍の術前診断