診療内容(診療グループ):大腸・肛門外科
大腸・肛門外科の診療と研究内容
 大腸・肛門外科では、主に大腸癌と炎症性腸疾患(クローン病と潰瘍性大腸炎)、大腸良性疾患(憩室炎)の治療を行っています。大腸癌の手術は年間約160件行っています。また、当科は大腸領域において九州で2カ所しかないda Vinci(ダヴィンチ)メンターサイト(指導施設)に指定されています(2024年5月時点)。これは、日本でもトップクラスの大腸癌の治療を行っていることを示しています。さらに、内視鏡手術における高度な技術を持つ医師を認定する内視鏡外科技術認定医合格者をほぼ毎年輩出しています。
対象疾患
大腸癌について
 世界でもトップクラスの長寿国である日本では、現在2人に1人が「がん」に罹る時代となりました。特に長崎県は全国で6番目にがんが多い県で、その中でも大腸癌は男女ともに最も罹る人が多いがんです(in situを含む)。
 大腸癌の発生には、赤身肉・肥満・運動不足・飲酒などが関わっていると考えられており、適度な運動や食物繊維などは大腸癌になる危険を下げるといわれていますが、完全に予防できる方法はありません。しかしながら、初期の状態で治療できれば99%治すことができるがんです。そのためには「がん検診」によって症状が出る前にがんを早期診断することが大切です。
大腸癌に対する治療法
ロボット(da Vinci:ダヴィンチ)支援下手術
 長崎大学病院では、2018年4月からの保険改定に伴い、直腸癌の治療においてda Vinci(ダヴィンチ)を使ったロボット支援下手術を導入しました。ロボット手術は、高解像度の立体感を持った画像(3Dビジョン)や手の動きに似た多関節機能を持った鉗子を使って行われます。また、手ぶれ補正機能もあります。ロボット支援下直腸手術は、従来の腹腔鏡手術よりもさらに細かく、精密な操作が可能です。この方法では、肛門機能や神経機能をできるだけ保護しながら、がんを治療することができます。また2022年から結腸癌(盲腸癌・上行結腸癌・横行結腸癌・下行結腸癌・S状結腸癌)に対しても導入しております。リンパ節郭清など精緻な手術を行うだけでなく早期の社会復帰が出来る侵襲の低い手術が可能になっております。
腹腔鏡手術
 当科では、低侵襲手術の代表格として腹腔鏡手術を中心として2007年より行ってまいりました。fロボット手術では未だ搭載されていない最先端のビデオシステムやエネルギーデバイスを用いることが出来るという利点が腹腔鏡にはあります。症例毎に腹腔鏡手術かロボット手術かを検討し患者さんに治療選択肢を提示するようにしています。
開腹手術
 当科では、ロボット手術や腹腔鏡手術では取り除きにくい大きながんには開腹手術を選択します。開腹手術のメリットは、広範囲のがんを確実に取り除けることです。しかし、デメリットとしては、傷が大きくなることや手術後の回復に時間がかかることが挙げられます。そのため、患者さんの状態やがんの進行度に応じて、最適な手術方法を検討します。
その他の治療
①肛門を利用した経肛門アプローチによる直腸癌手術

    肛門直上の腫瘍は腹腔鏡やロボット手術でも手術操作が難しいことがあります。そのような場合には、
  お尻の穴を利用して腹腔鏡手術器機を挿入し直腸癌の手術を行うことがあります。腹腔鏡手術やロボット
  手術と併用することで手術時間の短縮や出血量の軽減を期待できます。肛門温存が難しい症例でも肛門温
  存を実現できる可能性が高くなります。

②直腸がんに対する手術を行わない治療

    大腸がんの治療の一つに、total neoadjuvant therapy(TNT)があります。これは、大腸がんの中でも
  直腸がんに対して行われる治療であり、化学療法と放射線治療を組み合わせて行う方法です。治療がうま
  くいくと、手術を行わずに済むこともあります。また、手術の前にがんを小さくしたり、手術の成功率を
  高めたりする目的で行われることもあります。近年では大腸がんの治療には欠かせない重要な選択肢の一
  つです。当科では、がんの進行度や患者さんのご希望等に合わせて積極的に行なっております。

③大腸癌に対する集学的治療

    手術だけでは治すことのできない大腸癌に対して、抗癌剤や分子標的治療、放射線治療を組み合わせ
  た「集学的治療」を行っています。抗癌剤治療は、多くの場合「外来化学療法室」を利用し、できるだけ
  通常の日常生活を送りながら治療を続けられるようにしています。
食道がんの場所
進行度の評価
大腸癌に対する手術戦略
整容性・低侵襲性を追求
 当科で行う大腸癌の手術は、ほとんどの場合、腹腔鏡もしくは手術支援ロボットを使って行います。腹腔鏡・ロボット手術にはいくつかの利点があります。それは、1. 傷が小さく、2. 痛みが少なく、3. 術後の回復が早く、4. 術後の癒着が少ないことです。さらに、臨床試験の結果から、腹腔鏡・ロボット手術の長期的な予後(再発率など)も問題ないことが分かっています。患者さんの状態やがんの進行度に応じて、適切な手術方法を提案いたします。
機能温存を重視した直腸癌における術式の選択
 直腸癌が肛門の近くにあると、肛門も含めてがんを切除する手術が必要になることがあります。これを「永久人工肛門」と呼びます。しかし、最近では癌と肛門の距離が少しでもあれば、永久人工肛門を避けることができ、肛門機能を保持する手術ができる場合もあります。具体的には、化学療法や放射線療法を行い、腫瘍を小さくすることで肛門を温存する手術を行います(図の赤線が”がん”)。
狭窄が強い大腸癌に対する大腸ステントによる人工肛門の回避
 大腸癌による重い閉塞症状が見つかると、従来は緊急手術が必要で、人工肛門が作られることが多かったです。糞便が詰まると腸の壁が腫れて穴が開くことがあります。しかし最近は、消化器内科の協力を得て、腸を広げる金属のステントを入れることで緊急手術を避けることができるようになりました。腸の圧力を下げた後、後日腹腔鏡手術やロボット手術で治療を行います。
炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎
 潰瘍性大腸炎の手術には、主に以下の3つの方法があります:
1.結腸全摘と直腸粘膜切除、回腸嚢肛門吻合(IAA)
2.結腸全摘と直腸切除、回腸嚢肛門管吻合(IACA)
3.結腸全摘と回腸直腸吻合(IRA)

 IAA手術では病変部がすべて取り除かれますが、IACA手術では少し、IRA手術ではかなりの部分が直腸に病変が残ります。手術後も残った病変に応じてステロイド座薬などの治療が必要になることがあります。当科では、患者さんの状態や癌の可能性を考慮して最適な手術方法を選んでいます。すべての手術は腹腔鏡手術を優先して行い、消化器内科の医師と連携して最適な治療を提供しています。
クローン病
 クローン病による小腸・結腸の狭窄に対しても、可能な限り腹腔鏡手術を行っています。クローン病は再手術の可能性があるため、手術による癒着が少ない方法が適しています。最近では、生物学的製剤(抗TNFα抗体)の登場により、外科手術が必要なケースが減っていますが、消化器内科の医師と連携して適切な治療を提供しています。
その他
・鼠径ヘルニア
・腹壁瘢痕ヘルニア
・虫垂炎
・GIST
・神経内分泌腫瘍
・肉腫
・穿孔性腹膜炎
・腸閉塞
・直腸脱

 など、多岐にわたる疾患に対して手術を行なっております。