卒業生へのメッセージ

令和2年度長崎大学医学部医学科卒業生への祝辞

 医学科の卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。また御父兄の皆様にも心よりお慶び申し上げます。皆さんは医学部での勉学を終え、これから医療人となるべく希望に胸を膨らませていることと思います。

 昨年の今頃、新型コロナウイルス感染症が拡大し、世界的なパンデミックとなったため、医学科卒業証書授与式は中止せざるを得ませんでしたが、今年は感染防御に注意して、規模を縮小してではありますが、何とか開催に漕ぎ着けることができました。卒業にあたり皆さんと顔を合わせ、満開の桜のもと教職員一同で祝福できることをうれしく思います。皆さんも苦楽をともにした同級生、部活の後輩と卒業の日を迎えることを楽しみにしていたことと思います。

 思い起こせば医療は感染症との戦いでした。古くはペスト、天然痘、スペイン風邪等の大流行がありましたが、人類はこれらの感染症を克服して来ました。この新型コロナウイルス感染症のパンデミックも時が経つと、これらの感染症と同じように歴史の中で語られることになるでしょう。皆さんは今その感染症のまっただ中にいますが、是非医療がどのようにこの感染症に立ち向かっているかを自分の目で観察して欲しいと思います。

 昨年4月に長崎市の三菱重工長崎造船所に停泊中のクルーズ船、「コスタ・アトランチカ号」で新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生しました。長崎大学は行政や医師会とともに、事態の終息に向けて取り組みました。その結果、1名の死者も出さずに全員帰国できたのは、河野学長、崎長ライト氏による「死者ゼロの真相」に書かれているとおりです。また長崎大学はLamp法の開発、ワクチンの開発、5ALAを始めとする治療法の開発などに取り組んでいます。このように長崎大学は新興感染症の分野で日本、世界をリードしていることに皆さんは誇りを持っていただきたいと思います。

 今回の新型コロナウイルス感染症は必ず克服されると思いますが、また次の新興感染症が発生することが予測されており、そのサイクルが速くなることが危惧されています。それを防ぐためには今後、長崎大学が全学を上げてスローガンとして掲げている、プラネタリーヘルスにも取り組むことが重要になります。また感染症だけでなく、これから教科書では学んだことのない新しい疾患に遭遇するかもしれません。皆さんは医学部生として今まで先人が明らかにして来た多くの知識を吸収することを中心に勉強して来たかと思います。しかし、今後は単に目先の知識や技能を習得するのみでなく、日頃の診療、研究の中で自分自身の「問い」をたてて、それを解決する姿勢を持つことで、これらの病気に立ち向かう力を養っていただきたいと思います。

 現在医療は急速に進歩しています。遺伝子の配列は格段に速く読めるようになり、一人一人の遺伝子に基づくPrecision medicine、個別化医療が現実となりつつあります。また人工知能、AIの利用も急速に進んでいます。画像診断の領域では専門医の診断を上回る例も報告されています。ビッグデータの解析で多くのエビデンスが生まれると思います。がんを初めとする様々な疾患の病態が解明され、分子を標的とした治療が広く行われています。ロボットや機械の開発も進み、完全に体内に植え込む補助人工心臓が開発され、心不全の患者さんが心臓移植を受けないで、補助人工心臓のみで生きるdestination therapyが今年中には始まる見込みです。また再生医療や遺伝子治療も始まっています。今回のコロナ禍ではオンラインでの講義や会議が注目されましたが、今後IoTを用いた遠隔医療も益々発展するでしょう。これらの医学、医療の進歩に対して常にアンテナを張り、新しい時代の医学、医療を是非皆さんで切り開いていただきたいと思います。

 しかし、このように医学、医療が進歩しても根本にあるものは変わりません。皆さんが入学試験の面接を受けた際に、長崎大学を受験した動機を聞くと、ほとんどの方がポンペの言葉に感銘を受けてという回答をし、全文を諳んじていました。今も全文を覚えていますでしょうか? 今改めて「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上,もはや医師は自分自身のものではなく,病める人のものである。もしそれを好まぬなら,他の職業を選ぶがよい」の言葉を胸に刻み、その背景にある精神を、これから医療人となる中で持ち続けていただきたいと思います。

 「医は長崎から」で学習したと思いますが、かつて多くの若者が長崎の鳴滝の地でシーボルトの教え受け、日本中に西洋医学を広めました。またポンペから教えを受けた若者が日本の西洋医学の礎を築きました。皆さんが、長崎大学医学部の卒業生である自覚と誇りをもって、今後の医療、医学界で羽ばたくことを楽しみにしています。

令和3年3月25日
長崎大学医学部長
前村 浩二