新入生へのメッセージ

医学部長から新入生へのメッセージ

 医学科新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 皆さんが厳しい入試を乗り越え、長崎大学医学部の一員となられたことを、心よりお祝い申し上げます。また、これまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆様にも、医学部医学科の教職員を代表し深く敬意を表します。

 本学医学部は、日本最初の西洋式医学校を源流とし、160年以上にわたり医学の発展に貢献してきました。そして今年、長崎は被爆から80年という節目の年を迎えます。1945年8月9日、原爆投下によって長崎の街は壊滅し、本学医学部・附属病院も多くの犠牲を出し、医療機能をほぼ完全に失いました。しかし、その中から被爆者医療の研究と実践が始まり、現在も放射線被曝医療の分野で世界をリードしています。長崎で学ぶ皆さんは、こうした歴史と使命を受け継ぎ、未来の医療を担う存在として、今日から新たな一歩を踏み出すことになります。

医学の道を歩むうえで、確かな知識と技術の習得は不可欠ですが、それだけでは優れた医師にはなれません。医学は科学であると同時に、人を診る学問です。患者さんの不安や痛みを理解し、寄り添う姿勢を持つことが求められます。また、現代医療はチームで成り立っており、多職種と協力しながら、患者さんにとって最善の医療を提供する必要があります。他者への思いやりを持ち、互いを尊重しながら学び、成長してください。

 加えて、皆さんは医療者として、社会性と倫理観を深く身につけることが求められます。本学では「医と社会」という授業を通じて、医療と社会の関わり、医療倫理、医師としての責任について考える機会を設けています。医学は単に病気を治すだけでなく、人々が健康で安心して暮らせる社会をつくるための学問でもあります。患者さん一人ひとりを治療するだけでなく、公衆衛生や医療制度、社会的な要因にも目を向け、幅広い視点から医療を考えることができるようになってください。

 「医と社会」は試験がなく、レポートのみの評価ですが、決して軽視しないでください。医師としての実務に直結する内容が多く含まれ、皆さんの将来において大きな意味を持つ学びです。講義をただ受け流すのではなく、日々の診療や研究活動にも活かせるよう、積極的に真剣に取り組んでください。患者さんや社会との関わり方を考えることは、優れた医師になるために欠かせない要素です。

  また、近年、大学教育では教養教育の時間が減少していることも念頭に置いてください。医学の専門教育が重要であることは間違いありません。しかし、それと同時に、医療を支える人文・社会科学の知識や、多角的な視点を持つことが、医師としての資質を高めるうえで欠かせません。社会の仕組みや歴史、哲学、文化、芸術といった分野に自ら関心を持ち、積極的に学ぶ姿勢を持ってください。医療現場では、患者さんが置かれた社会的背景を理解することが必要ですし、また、医学の発展には倫理的・哲学的な視点も欠かせません。自主的に読書をしたり、様々な分野の講義や議論に参加することで、視野を広げてください。

 被爆から80年というこの年に、本学で学びはじめる皆さんには、医学の知識だけでなく、平和や人道、社会と医療の関係についても深く考えてほしいと思います。医療の本質は、目の前の患者さんを治すことだけではなく、より良い社会を築くことにもあります。長崎の地で学ぶ医学生として、ぜひその意義を胸に刻み、学びを深めてください。

 これからの6年間、膨大な知識を学び、臨床の現場に触れ、多くの試練を経験することになるでしょう。時には困難に直面することもあるかもしれませんが、それを乗り越えることで、医学の本質を理解し、医師としての責任を自覚していくはずです。どのような道に進むとしても、ここで得た学びと経験が、皆さんの礎となることは間違いありません。

 皆さんの医師としての第一歩を、医学部医学科の教職員一同、心から応援しています。知識と技術を磨くだけでなく、思いやりと倫理観を持ち、社会性と教養を兼ね備えた医師へと成長されることを期待しています。

令和7年4月2日
長崎大学医学部長
池松 和哉