医学部長から新入生へのメッセージ
医学科新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
2年前から始まった新型コロナウイルス感染症のために、皆さんの生活は一変し大変困難な環境の中で勉強をされて来たことと思います。特に今年1月からは、オミクロン株の流行の中での入学試験となり精神的にもかなりストレスがかかったことと思います。このような困難を乗り越え、本日入学の日を迎え晴れやかな気持ちで希望に胸を膨らませていることと思います。この気持ちを忘れずに、医学についての勉強のみでなく、社会人、医療人となるための多くの経験をしていただくことを期待します。一方で2年間の新型コロナウイルス感染症は、急速にデジタルトランスフォーメーションを推し進めました。そのため医学部でもオンラインでの講義や面談にかなり慣れて来ました。新型コロナウイルス禍の中での大学生活の船出となりますが、対面とオンラインを併用しながらスムーズに学生生活に溶け込んでいただきたいと思います。
皆さんがこれから長崎大学医学部で学ぶ上で、特に3つのことを意識していただきたいと思います。まず長崎大学医学部は、1857年にオランダ国軍医ポンペ・ファン・メールデルフォールトが医学伝習所において、松本良順やその弟子達に近代西洋医学教育を開始したのを以って開学としています。その後1961年には西洋式の病院である小島養生所が開設され、日本で初めてベッドサイドでの医学教育が始まっています。一昨年小島養生所跡地に立派なミュージアムが完成しました。是非一度見学に行き、建学の精神を学んでいただき、自分の今後の使命を認識していただきたいと思います。
2つ目が、原子爆弾被害からの復興です。1945年8月9日11時2分、世界で第2発目の原子爆弾により、長崎医科大学と附属医院は壊滅状態となり、890有余名の大学関係者と学生らが犠牲となりました。自らも被爆するなかで原爆障害の研究に献身的に取り組んだ永井隆博士に代表されるように、多くの先人の献身的努力により復興を遂げました。そして世界で唯一原子爆弾の被害を受けた医学部として、様々な形で被爆医療に携わってきました。永井隆博士の書かれた「長崎の鐘」が復刻され、先日如己の会から新入生用に寄贈いただきました。是非「長崎の鐘」を読んでいただき、このような先人の努力のもとに今日の長崎大学医学部があることを認識していただきたいと思います。今年2月からロシアがウクライナに侵攻し、子どもを含めた一般人が犠牲になっているのは痛ましい出来事です。特に原子力発電所にまで攻撃を仕掛けていることは由々しき事態です。皆さんは1986年に発生したウクライナのチェルノブイリ原発事故を知っていますでしょうか?長崎大学はチェルノブイリ原発事故での健康被害を調査し、被害者救済支援や被ばく医療学に関する研究で世界的な活躍をしました。このように長崎大学医学部とウクライナとの関係は深く、また長崎大学は、世界で唯一、被爆を経験した医科大学でもあり、今回のロシアのウクライナ侵攻と「核の恫喝」に対し、いち早く抗議声明を発表しています。ウクライナの人々の無事と平和の回復を皆さんもいっしょに願っていただきたいと思います。
3つ目は、現在も続いている新型コロナウイルス感染症についてです。皆さんは今までマスコミからの知識しか無かったと思いますが、是非この感染症に対してどのように医学、医療が立ち向かっているかを経験して頂きたいと思います。幸い長崎大学は感染症の分野で日本をリードしており、現在新型コロナ対策に携わっている方の多くが本学出身です。この新型コロナウイルスに立ち向かう過程を観察しておくことが、皆さんがこれからの医学部での学習、また卒業してから医療人となって新しい疾患に立ち向かう上での大きな糧になると信じています。
長崎大学は現在プラネタリーヘルスをスローガンにしています。グローバルヘルスは世界中の人々の健康を考える訳ですが、一歩進んで人の健康だけでなく地球の健康にも配慮し、そのことがまた人の健康にも還元されるというのがプラネタリーヘルスの考えです。その意味を理解して他学部とも連携して学んでいただきたいと思います。
皆さんがこれから6年間勉学する中で様々な障壁に阻まれるかもしれません。本学には教育に熱意あふれる指導陣が揃っておりますので、是非皆さんをサポートして未来の医学、医療を担う人材として育成したいと思っています。意欲あふれる皆さんといっしょに学ぶこと楽しみにしています。
令和4年4月1日
長崎大学医学部長
前村 浩二
